「スコープ3」の衝撃(4)問われる住宅・建設のGHG算定

スコープ3の衝撃(4)

記事のポイント
①GHG「スコープ3」算定基準の変更は、住宅・建設業界にも多大な影響
②従来、住宅・建設の排出量は原単位に取引金額を掛けて計算していた
③この手法では、GHGを減らしたのに計算上で増えてしまう矛盾も

環境省は2024年度末に企業や組織のGHG(温室効果ガス)排出量のうち「スコープ3」(間接排出)について、「一次データ」(実測値)を使った算定方法の方針を示す。これに最も大きな影響を受ける業界の一つが住宅・建設業界だ。

住宅・建設分野のGHG排出量は、国内全体の排出量の約4割を占める

「今後のGHG算定は、サプライヤーの削減努力を正確に反映すべき」——。こう指摘するのは元積水ハウス常務でJCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)顧問の石田建一氏だ。

2030年のNDC(国別削減目標)を達成するために時間が限られるなかで、石田氏は住宅・建設分野の算定改善として、産業連関表の排出原単位に企業別の「削減係数」を掛ける独自の方法を提案する。その内容を寄稿してもらった。

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GHGを減らしたのに計算上で増えてしまう矛盾とは

住宅・建設分野のGHG排出量は、国内全体の排出量の約4割を占めるとも言われており、非常に大きい。使用時のエネルギー消費に伴うものが最も大きいが、ZEH(ゼロ・エミッション・ハウス)やZEB(ゼロ・エミッション・ビルディング)などの増加によって、総量削減の方向に向かっている。

エネルギー使用時のGHG排出量が少なくなってくると、次の課題はビルや住宅を建築する時のGHG排出量の割合が上昇することだ。さらに、最近はサプライチェーン全体のGHG排出量の削減が問われる。建設企業でなくても、社屋など自社のスコープ3「カテゴリ1」を削減するためには、建築時のGHG排出量の把握は重要だ。

建築時のGHG排出量の計算は、産業連関表の住宅(木造)、非住宅(木造)、住宅(非木造)、非住宅(非木造)の大雑把な原単位に建築総額を乗じて求める方法が一般的である。

しかし、この方法には大きな矛盾がある。GHG排出量が少ない割高な材料を使用すると建築費が増加し、逆に計算上のGHG排出量は増加してしまうのだ。したがって、まずは建築時のGHG排出量をきちんと算出する必要がある。これにより初めて、GHG排出量の小さなコンクリートや鉄の使用による削減効果が評価できるようになる。

GHG排出量の計算できる共通のデータベースを

GHG排出量の算定自体は、産業連関表の対応する原単位に使用材料の重さなどを乗じて求めれば良いので掛け算と足し算だけである。その計算自体は簡単だと言える。

しかし、いざ計算しようとすると大変だ。一つの建物の部品は数千点から構成している。一つひとつの部材が、産業連関表のどの部門に対応しているのか判断しなければならない。

数量も原単位を利用して求めるためには、物理量(例えばkg,m3)を割り出さなければいけない。コンクリート杭を例にとれば直径と品種と長さが出ているだけで、ここから重量を求めなくてはいけないのだ。

このため手作業では1物件を計算するのに1週間から2週間の手間と時間が必要になる。

さらに、部材の部門別への割り当ても計算者で異なる可能性がある。例えば、塩化ビニールはどの部門名なのか、記述がないため、探さないといけない。

建築部材名のGHG排出量を計算するためのデータベース(DB)の共通化が必要だ。

全国には2万社以上の中小ゼネコンがある。全てのゼネコンで建築時のGHG排出量の計算を行えるようにするためには、より簡単で分かり易い方式が必要であろう。さらにGHG排出量計算を専門とする事務所などの新たなビジネスも必要だろう。

「サプライヤーのGHG排出削減努力を正確に反映できない」

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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