記事のポイント
- ニットやマフラーに使用されるウールのアニマルウェルフェアが問題視される
- スウェーデン発のクリッパンは環境や動物に配慮した「エコウール」を提案
- 日本総輸入元企業「良いものをきちんと選択していくことが重要だ」
寒い季節に欠かせないニットやマフラー。しかし、その温かさとは裏腹に、ヒツジの臀部を切り取るミュールジングや虐待的刈り取りなど、ウールのアニマルフェア(動物福祉)が問題視されている。そうしたなか、スウェーデン発のホームテキスタイルブランドKLIPPAN(クリッパン)は、環境や動物に配慮した「エコウール」を提案する。(オルタナ副編集長=吉田広子)
「クリッパンがウールを調達しているスウェーデンやニュージーランドの牧場では、ヒツジたちは広大な農場で放牧され、農薬不使用の自然牧草で飼育されています。冬はふかふかの藁(わら)の上で過ごすので、検品の際に藁が混ざっていることもあります。健康的な環境で育った証といえるかもしれません」
こう話すのは、クリッパンの日本総輸入元「E.OCT(イーオクト)」(東京・渋谷)マーケット&ブランドバリュー創造部の狩野佑紀さんだ。
クリッパンは1879年、スウェーデン南部の小さな町クリッパンに紡績工場として誕生した。ウールの紡績から染色、製造までを一貫して自社で行い、ブランケットやスロー、ストールといったウール製品やオーガニックコットンを使用したブランケットを製造、販売している。
同社はサステナビリティ(持続可能性)にこだわり、NZバンクス半島の牧羊農家グループらが生産する「エコウール」をはじめ、近年では地元のスウェーデン産ウール、リサイクルウールなどを原料に製品づくりを行う。
スウェーデンの国家出資プロジェクト「スウェディッシュ・ウール・イニシアティブ」にも加盟し、持続可能な生産サイクルを推進するとともに、ウール産業の活性化にも取り組む。
■ウール生産の何が問題なのか
ウールは、全繊維の生産量としては1%しかないが、最も消費されている動物繊維で、ヒツジの毛を原料とする。世界では約12億頭のヒツジが飼育され、産毛量は約103万トンに上る(2021年、WTO market information発表)。
では、ウール生産の何が問題なのか。例えば、「ミュールジング」は、糞尿でウジが発生しやすい臀部の皮膚と肉を切り取る処置だ。ハエウジ症に罹るとヒツジが死ぬこともあるため、その予防策として行われる。
生後6カ月未満の子ヒツジを拘束し、麻酔や処置後の手当てもないので、ヒツジは痛みとトラウマに苦しむという。
ウールの刈り取り方法も残虐的だ。国際動物愛護団体PETAの調査によると、毛刈り業者は短時間でより多くの毛を刈ることを求められるため、皮膚や乳頭、尻尾、耳まではぎ取ってしまうことも多いという。米国とオーストラリアで実施した調査では、電気バリカンで顔を殴ったり、首を折ったりする事業者の実態が明らかになった。
一方、クリッパンがウールを仕入れる牧場では、自然放牧でヒツジを育て、寄生虫予防のための殺虫剤を使わず、当然ミュールジングも行わない。
■高校生がクリッパンの端切れをアップサイクル
クリッパンの日本総輸入元であるイーオクトは、「ひとりひとりの暮らしから、快適なサステナブル社会をつくる」を掲げ、サステナブルな製品やアイデアを日本に広げることで、持続可能な社会づくりを目指す。
クリッパン以外にも、水だけで汚れ、菌がとれるMQ・Duotex(エムキュー・デュオテックス)清掃システムや購入することで植樹につながる「スポンジワイプ」など、北欧を中心とした環境配慮型製品を取り扱っている。
渋谷の直営店舗「エコンフォートハウス」では、一般顧客向けに、検品時に発生するクリッパンの端切れなどを使って、トートバッグやルームシューズをつくる「サステナブルワークショップ」を開いてきた。10月には女子美術大学付属高等学校と協働し、クリッパンの端切れをアップサイクルするプロジェクトも企画した。
同社の高橋百合子社長は「製品には、その国・地域の文化や生き方、考え方が込められている。製品から学べることも多い。クリッパンのように、環境に良いだけではなく、機能的でデザイン性に優れた魅力的な製品を紹介していくことで、少しずつ『暮らし』が変わっていくはず。足元の『暮らし』から、良いものをきちんと選択していくことが重要だ」と話した。