「経木」が復活、プラスチックの代替品現る

記事のポイント


  1. 木を薄く削って作られる「経木」の需要が再び高まりつつある
  2. 経木は「敷く」「包む」「飾る」などサステナブルで実用的な包装材だ
  3. ところが主原料であるアカマツは気候変動で減少しているという

やまとわ(長野県伊那市、中村博社長)は、地域の森林資源を使って、「経木(きょうぎ)」の生産、販売を行っている。木を薄く削って作られる「経木」は、「敷く」「包む」「飾る」など多彩な機能がある。プラスチック代替品としての期待も高まるが、気候変動によるアカマツの減少や、後継者不足という課題もあるという。(オルタナ編集部・下村つぐみ)

アカマツから生産された「経木」

やまとわは、地域の森林資源を使って、「森と暮らしを再びつなぐ」ことを目指す。同社の本社がある伊那市は南アルプスの山麓に位置し、一帯にはアカマツの木が多く樹生している。

同社の特徴は、「夏は農業」「冬は林業」と、季節に合わせた事業だ。農業では農薬、化学肥料を使わない野菜の有機栽培を手掛ける。

カボチャやニンジンなどの野菜はピューレに加工し、冬に伐採した木はオーダーメイド家具や経木に加工する。加工することで、付加価値を付ける。

同社は、地域の森林資源の有効利用を目指している。その背景には、海外の森林資源の減少や、日本の森林資源が手つかずのまま荒廃しているという社会課題を解決したいという、中村社長の思いがある。

大和時代から使われていた「経木」の歴史とは

同社は、地域に自生しているアカマツから「経木」を生産している。経木とは、木を薄く削って作る、日本伝統の包装資材だ。

経木は大和時代から使われていた。紙の入手が困難な時代に、「先人たちは木にお経を書いていた」(同社サイト)という。江戸時代には、それまで食品を包んでいた竹皮の不足から代替品として食品を包んだことをきっかけに、経木の生産が本格化した。

経木は食品包装に適している。木には調湿作用があり、乾燥しにくいとともに、結露を防ぎ、食材の鮮度を保てる。冷凍も可能で、解凍の際には結露を吸ってくれる。生魚や肉を切る際にまな板代わりに使えば、まな板をその都度洗う手間が省ける。余計な油も吸うため健康的だ。

特に、アカマツの経木は食品包装に優れているという。アカマツのヤニには抗菌作用があると言われ、食品の衛生面でも安心して使える。

自然由来でできているため、コンポストが可能で、キャンプなどにも最適だ。使い終われば、そのまま焚火の燃料として使用できる。森にごみとして落とした場合でも土に還るため、環境負荷が低い。

ところが、プラスチック製品の登場を機に、経木は、私たちの暮らしから姿を消した。それが近年、プラごみ問題の救世主として再び注目を浴びている。同社には、経木の生産が間に合わないほど注文が来ているという。

同社は2020年8月から経木の生産をおこない、現在では月産8万枚に上る。関西の地域スーパーは全店舗で、肉のパック販売に使用するドリップ吸収シートに同社の経木を採用。「551HORAI/蓬莱」で有名な肉まんの敷き紙としても同社の経木が使われるなど、経木の需要は増加傾向だ。

また、木の調湿作用は発酵を促すため、納豆や麹の包装としても需要がある。

気候変動がアカマツの減少に

国内のアカマツは「マツ枯れ病」のため、減少している。マツ枯れ病とは、輸入材木の中にいたマツノザイセンチュウ(線虫)がカミキリムシを媒介しアカマツに入り、枯らしてしまう。

マツノザイセンチュウは、気候温暖化によって増殖するとされる。この線虫が侵入すると、繊維が崩されてしまい、材木として使えなくなる。同社の本社がある伊那市でも被害は大きく、長野県全体でも毎年7万平方メートルものアカマツに被害が出ているという。

マツ枯れ病を防ぐためにも、健康的な森林の維持には適度な手入れが必要だ。しかし、伊那市の人口は減少傾向にあり、林業・農業と担い手の不足が課題となっている。

経木を生産する会社もプラスチックの普及とともに減少し、現在では後継者がいる会社は10社程度だという。

同社は、これまでも森づくりの基礎を学ぶための講習会を開き、林業や農業の担い手の教育にも力を入れてきた。その受講生約10人がすでに伊那市へ移住した。

中村社長は、「今後も自治体や地域の企業と協同し、地域の資源を用いた地域密着型の事業を進めていきたい」と意欲を示した。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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