人工石油の「ドリーム燃料製造装置」、開発者「永久機関的」

記事のポイント


  1. 2023年1月、大阪府と大阪市などが支援して、人工石油の実証実験を行った
  2. 実験では「人工石油が反応のたびに5~12%増えた」ことが実証されたという
  3. 開発者の今中忠行・京大名誉教授は、この装置を「永久機関的」と形容した

2023年1月、大阪市や大阪府などが支援して、「水と大気中のCO2などから生成する人工石油」の実証実験があった。この「ドリーム燃料製造装置」を開発したのは、京大名誉教授で立命館大学総合科学技術研究機構・上席研究員の今中忠行氏だ。同氏はオルタナの取材に対して、装置を「永久機関的」だと形容した。(オルタナ編集部)

大阪市で行った実証実験の概要

実証実験の主催者はサステイナブルエネルギー開発(仙台市、光山昌浩社長)だ。大阪府、大阪市、大阪商工会議所の三者の支援を受け、1月11日-17日の7日間、花博記念公園鶴見緑地(鶴見区)で行った。

オルタナ編集部は今回、光山社長と今中氏の双方に取材した。両者の資料などによると、人工石油は大気中のCO2(二酸化炭素)と種油と電力だけで生成されるという。水を特殊な光触媒によってラジカル水にして、そこに種油とCO2を加えることで、人工石油ができるという。

今中氏は「種油が軽油なら人工軽油ができる。種油が灯油なら人工灯油ができる。種油を加えるのは一回目の反応だけで、二回目以降の反応には新しい種油は要らない」とオルタナ編集部に説明した。

特殊な光触媒は二酸化チタン、鉄、プラチナなどでできているという。この光触媒を水にさらし、UVライト(ブラックライト)を当てることで、「ラジカル水」を生成できるという。

■人工石油の生成コストは、軽油の場合1リットル14円

同社の試算によると、種油10リットルとラジカル水8リットルから合成燃料1リットルが生成できる。この過程で種油10リットルがそのまま残るので、次の反応に使い回せる。残りの7リットルは排水される。人工石油の生成量は5~12%で、1回の反応に3~5分程度掛かるという。

人工石油生成装置の特許は今中氏が代表を務めるアイティー技研(滋賀県草津市)が保有しており、実証実験では同社の装置を貸し出した。この装置は、大気中からCO2を取り込む「炭酸固定装置」と、光触媒を使って合成燃料を生成する装置の2つに分かれる。

サステイナブルエネルギー開発の試算によると、人工石油の生成コストは、軽油の場合、1リットル14円となる。内訳は、ポンプやUVライトの電気代、原水の費用、メンテナンス代などだ。種油は使い回せるため、コスト計算に入れていない。

「ドリーム燃料製造装置」で生成した人工石油で発電機を回した場合、発電コストは「1kW時当たり3円」と驚異的に安くなると光山社長は試算する。

サステイナブルエネルギー開発は今後、「ドリーム燃料製造装置」を第三者に月額数十万円でリースし、月産4万3200リットルもの人工石油生成を見込んでいる。リースに出した場合、装置の設置工事費用を加えると、人工石油のコストは「1リットル50円ほど」になるという。

■開発者の今中氏「この装置は永久機関的だ」

この装置については、すでにネットでも懐疑的な意見が多数出ている。ポイントは、「エネルギー保存の法則」や「ヘスの法則」に反しているとされることだ。ヘスの法則とは「化合物AがBに変化する反応熱は、化合物Aの生成熱と化合物Bの生成熱から決定できる」。

つまり、「あるもの」を燃やしてエネルギーが得られる場合、その「あるもの」を生成するには、燃やすのと同じエネルギーが消費されるという意味だ。

原油が持つエネルギーはプランクトンや藻類などが生きている時に体内にため込んだ太陽エネルギーが起源とされる。その生成には膨大な量の生物の死骸と、数億年もの長い年月がかかった。一般的に、石油を人工的に作るためには、膨大なエネルギーが必要とされる。

エネルギーを新たに投入しなくても動き続ける「永久機関」も、専門家は「エネルギー保存の法則」を根拠に明快に否定している。

オルタナ編集部の「ドリーム燃料製造装置は永久機関だと考えていますか」との問いに対して、今中氏は「永久機関的です」と答えた。

「船に装置を積めば、海の水と大気があるので、無寄港で世界中を回り続けられる」と説明する。一方で、光山社長は「効率は良いが、永久機関ではない」とし、見方が分かれた。

エネルギー保存法則については、今中氏は「反応性が高い電子、あるいは電子を含んだ物質を対象にしている場合には、エネルギー保存法則の外にある」と答えた。

「原爆や水爆も同じだ。原子核のなかには電子、陽子、中性子があり、それらが関与した反応の場合には、エネルギー保存法則の例外が多くある」

今中氏は、「投入エネルギーよりも出力エネルギーのほうが大きいことも肯定し、「だからこそ安くできる」とした。

実証実験を終えて、今後大阪での取り組みはどのように展開していくか。「詳細は控えたい」としつつ「市とも協力していきたいし、万博があるので府とも協力していきたい」と話した。

今回、実証実験を支援した大阪市環境局環境施策グループの北崎元さんは、実証実験を行う企業の選定について「革新的であることや、事業化の検討が可能であること」などを挙げた。一方で、一般論として、実証した技術の「科学的な検証はできていない」とも話した。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #脱炭素

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