英語で学ぶサステナビリティ (30)

新入学、新社会人の皆さん、おめでとうございます。また新たな場で新年度を迎えた皆さん、晴れやかな気分でスタートラインに立たれたこととお慶び申し上げます。

今月はLesson 3, “Global Poverty and Child Labour”「世界の貧困と児童労働」を読みます。現在、世界には1億6800万人の子どもたちが児童労働員として働いているといわれ、この数は日本の人口を上回ります。なかでも多いのはカカオ畑やコットン畑をはじめ農業分野で働く子どもたちです。児童労働をゼロにするため世界的に取り組みが進められていますが、他人事でなく何ができるかを考えていくことが求められています。

【語注】
conjunction 結合
exacerbate 悪化させる
consistently 一貫して
eradicate  根絶する、絶滅させる
estimate  (数・量の)推量、推定。見積り
abolition  廃止
human trafficking  人身売買
statistics  統計(学)、統計データ
convention  条約、協定、会議
hazardous  危険な、有害な
issuance  発行
complicity 共謀、連座、共犯
contractor  受託業者

世界で7億人が一日1.9ドル未満で暮らす

In January 2014, in conjunction with the World Economic Forum (Davos), an international NGO, Oxfam, released a report with shocking figures. It said that one percent of the world’s population now controls half of the world’s wealth, and that total wealth of the world’s richest 85 people equals the total wealth of the bottom 3.5 billion people in terms of income. Extreme income inequality has led to a monopoly of the political process by the wealthy few, which has further exacerbated the inequality.

【訳】
2014年1月、世界経済フォーラム(ダボス会議)にあわせ国際NGOオックスファムは衝撃的な数字を発表しました。同報告書によれば「世界人口の1%が世界の富の半分を支配している。世界の最富裕層85人の総資産が所得下位35億人の総資産に匹敵する」。極端な所得格差が少数の富裕層による政治プロセスの独占をもたらし、それが格差をさらに悪化させているというのです。

in conjunction with 「~と連動して、~と併せて、~と共に、~と同時に」
オックスファム・インターナショナルは貧困不正を根絶するため持続的な支援・活動を90か国以上で展開しています。

According to the World Bank, the number of people living on less than $1.9 a day, the international poverty line, is 736 million. Even in India, which is experiencing rapid economic development, one in three people still live in poverty, highlighting the fact that the world and developing countries are still structured in a way where the rich get richer and the poor remain poor.

【訳】
世界銀行によれば、国際貧困ラインである一日1.9ドル未満で暮らす人の数は7億3600万人。経済発展が著しいインドにおいてもいまだに3人に1人が貧困状態にあり、世界そして途上国が「富める者はますます富み、貧しいものは依然として貧しい」社会構造であることを浮き彫りにしています、highlight the fact 「~という事実を浮き彫りにする」。

このような表現をストックしていると、英文を書くとき役立ちます。国際貧困ラインについてはこちらが参考になるでしょう。世界の貧困に関するデータ (worldbank.org)

ミレニアム開発目標から持続可能な開発目標へ

The international community has consistently worked to eradicate poverty. The Millennium Development Goals (MDGs), a commitment launched by the United Nations in 2000, consisted of eight goals, targets and indicators to measure them, and set out the direction the world should take to reduce poverty by 2015. Its successor is the Sustainable Development Goals (SDGs), which consist of 17 goals and 169 targets. These goals are characterized by such features as “no one will be left behind” and “universality” as well as a strong determination to “end poverty in all its forms.”

【訳】
国際社会は一貫して貧困撲滅に取り組んできました。2000年に国連が打ち立てたコミットメント「ミレニアム開発目標」(MDGs)は8つの目標、ターゲット、それを測る指標で構成され、2015年までに貧困削減に向けて世界が目指すべき方向性を示していました。その後継となるのが17の目標と169のターゲットからなる持続可能な開発目標SDGsです。これは「あらゆる形の貧困を終わらせる」という強い決意とともに「誰も取り残されない」「普遍性」等の特徴があります。

MDGsは「開発分野における国際社会共通の目標」です。2000年9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットで採択された国連ミレニアム宣言を基にまとめられました。MDGsは,極度の貧困と飢餓の撲滅など,2015年までに達成すべき8つの目標を掲げ,達成期限となる2015年までに一定の成果をあげました。(ODA) ミレニアム開発目標(MDGs) | 外務省 (mofa.go.jp)

successorは狭義の「後継者、継承者」以外に、「あとから来た人、もの」「とってかわる人、もの」といった意味で用いられます。

The differences between the MDGs and the SDGs include the fact that the SDGs cover all countries, whereas the MDGs mainly covered developing countries, and that the SDGs incorporate environmental targets in response to the United Nations Conference on Sustainable Development (Rio+20) and other trends.

【訳】
MDGsとSDGsの違いとしては、MIDGsが途上国を対象としていたのに対し、SDGsはすべての国が対象となっていることがあります。またSDGsは国連持続可能な開発会議(リオ+20)等の流れを受け、環境に関する目標が取り込まれたこともMDGsとの違いとしてあげられます。

リオ+20(2012年6月)は1992年開催の「国連環境開発会議」(「地球サミット」)」20年後に開催されたフォローアップ会議です。「グリーン経済への移行」と「持続可能な開発のための新たな枠組みづくり」がおもに話し合われました。詳しくは外務省: リオ+20~持続可能な未来を創るために (mofa.go.jp)

世界の児童労働者数、1億5200万人

In September 2017, the International Labour Organization (ILO) released an estimate of 152 million child workers worldwide. Target 8.7 of the aforementioned SDGs sets targets for the abolition of forced labour, modern slavery, and human trafficking by 2030, and the elimination of all forms of child labour by 2025. The ILO publishes these statistics every four years since 2000. The number of child labourers dropped by 47 million, from 215 million to 168 million, a significant decrease. Compared to the last time in 2013, when it was shown in the 2017 announcement, which was touted as the first time since the adoption of the SDGs, showed only a slight decline of 16.33 million people.

【訳】
2017年9月、国際労働機関ILOが世界の児童労働者数の推計を1億5200万人と発表しました。前述のSDGsのターゲット8.7には、2030年までに強制労働、現代的奴隷、人身取引の廃止、および2025年までにあらゆる形態の児童労働の撤廃という目標が設定されています。ILOは2000年以降、4年ごとにこの統計を発表しています。

児童労働者数が2億1500万人から1億6800万人へと4700万人もの大幅な減少をみせた2013年の前回に比べ、SDGsの採択後初めてとして注目されていた2017年の発表では1633万人の微減にとどまりました the aforementioned~ 「前述の~」。文章で用いられます。

abolition は「廃止」ですが、文脈によっては「奴隷制度廃止」の意味で用いられるので注意してください。

touted as~「~とうたわれている、宣伝されている」。

児童労働は働くすべての子どもを指すのではない

The ILO’s two conventions, the Worst Forms of Child Labour Convention and the Minimum Age Convention, are the basis for defining and thinking about child labour, which basically refers to illegal work under the age of 15 and hazardous work between the ages of 15 and 18. Child labour is a risk in the context of a company’s business activities, and when child labour is exposed and brought to light by the media and NGOs, it lowers the value of the brand. Not only is child labour against the law, but is regarded as an issue that should be addressed as part of corporate social responsibility.

【訳】
ILOの2つの条約「最悪の形態の児童労働条約」「最低年齢条約」が児童労働の定義と考え方の基準となります。基本的には15歳未満の違法な労働と、15歳以上18歳未満の危険有害労働を指します。児童労働は企業の事業活動の文脈ではリスクであり、児童労働がメディアやNGOにより摘発され明るみに出されると、ブランド価値を下げることになります。

児童労働は法令違反であるだけでなく、企業の社会的責任として取り組むべき課題と認識されています。

bring to light ~「~を明るみに出す」。
addressは「対処する、取り組む」。よく用いられますので慣れておきましょう。

児童労働に関するILO条約についてはこちらを参考にしてください。児童労働に関するILO条約

With the issuance of the ISO 26000 standard in 2010, the scope of corporate responsibility for child labour has been further expanded. Companies are required to conduct human rights due diligence on how to avoid complicity in the use of children not only directly, but also at contractors in the supply chain and at raw material procurement sites.

【訳】
2010年のISO26000の発行により、児童労働については企業の責任の範囲が広がりました。企業は、直接的に児童を使用するだけでなく、サプライチェーンの委託先企業や原料調達現場も含めた加担をいかに回避するか、人権デューデリジェンスを実施することが必要となります。

最後のセクションの補足を少々。国連は2011年「ビジネスと人権指導原則(United Nations Guiding Principles on Business and Human Rights)」によって、国家と企業の双方が人権を尊重し人権リスクに対処することの必要性を明らかにしました。企業の事例でいえば、ネスレは2012年西アフリカのカカオ コミュニティにおける児童労働状況改善に取り組んでいます。ネスレ 児童労働への取り組みを拡張、カカオの持続可能性プログラムを拡大 | ピックアップニュース | ネスレ日本 企業サイト (nestle.co.jp)

LUSHは2018年ラメやグリッターの原料であった天然マイカの使用中止を宣言しました。「天然マイカは自然界に存在する鉱物ですが、採掘の過程に児童労働が起きていないという保証ができなくなりました。子どもを不当に働かせることは、明らかな人権侵害です。そこでラッシュでは、天然マイカの使用を取りやめ、現在は合成マイカを使用しています。合成というと人工的に聞こえますが、複数の天然鉱物をミックスした、地球にやさしい素材です」。人も環境も!「ラッシュ」が目指すハッピーな社会【BEAUTYからSDGsを考えよう】|美容・化粧品情報はアットコスメ (cosme.net)

日本企業では一般に児童労働の問題に対する意識、危機感が薄いといわれています。今後実効性のある取り組みが強く求められる分野といえるでしょう。

今月はここまでです。また来月お目にかかりましょう。

aishima

相島 淑美(神戸学院大学経営学部准教授)

日本経済新聞記者、清泉女子大学英文学科教員を経て現職。翻訳家。鈴木淑美名義でJFK伝記など20数冊の訳書がある。 博士(先端マネジメント、関西学院大学)、MBA(関西学院大学)、修士(文学、慶應義塾大学)。文化・文学の視点から日本のマーケティング、SDGs、エシカル消費について研究している。執筆記事一覧

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キーワード: #サステナビリティ

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