困窮するミャンマーで今、人々の自立支援に求められること①

記事のポイント


  1. 医師の名知仁子さんは、ミャンマーで医療と農業の支援に取り組んでいる
  2. 村人の自立を第一に「魚の釣り方」は教えても魚自体は与えない
  3. しかしひっ迫するミャンマー情勢を受け、臨機応変な支援の必要性を痛感

3月31日、私たちMFCGが支援するトーイ村で、コミュニティガーデンで使う水貯蔵タンクの開所式を行いました。村人たちの努力が実を結んだ瞬間に立ち会うことができて、感無量で涙がこぼれました。その一方で、日に日に逼迫するミャンマー情勢を受け、私たちの支援もこれまで以上に臨機応変な対応が迫られていることを痛感しています。(NPO法人ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会「MFCG」代表理事・医師・気功師・名知仁子)

村人の生命をつなぐ、待望の水貯蔵タンク

▪️ひっ迫するミャンマー情勢「魚の釣り方を教える」方針に限界

コミュニティガーデンとは、村人が有機野菜の栽培を通して自給自足できるよう支援を行い、継続的な自立を促すプロジェクトです。

トーイ村のコミュニティガーデンのリーダーであるソープレムーさんは、2018年にMFCGが行った有機栽培の講習にはじめて参加し、一から技術や知識を身に付けました。最初、彼には定期的な収入がなく、2人の子どもをどう養っていくか途方に暮れていました。

その当時、村の全91世帯のうちトイレを備えていたのは15世帯でした。それから5年を経た現在は151世帯に増え、全世帯にトイレがあります。これはソープレームさんら村人の努力と、MFCGが育てた「地域健康推進員」(※)による成果です。

※地域健康推進員の詳細
自立しはじめた村のリーダー「地域健康推進員」とは

MFCGが目指すのは、「村人たちの『自立(自律)』をともに創り上げ、『命・生活』を守ること」です。そのために「魚の釣り方」は教えますが、魚自体を与えることはしてきませんでした。しかし、昨今のミャンマー情勢のひっ迫によって、この方針を見直さざるを得ない状況になっています。

ミャンマーは世界的なコロナ禍に加えて、2021年2月1日の政変を受けて多くの外資系企業が撤退し、アメリカなど各国から経済的制裁を受けています。その負のサイクルが、村人たちの生活を日に日に圧迫しているのです。

▪️水貯蔵タンクはどうしても必要な「魚」

ミャンマーには大きく乾期・暑期・雨期の3つがあります。現在は暑期で、気温が約40度に上がる中、水が全く得られない状況です。これまでは近くに井戸がありましたが、コミュニティガーデンで除草剤を使用してしまい、きれいな土壌を求めてガーデン自体を移設しました。

有機農法を基本としながらも試行錯誤を繰り返す中で、時にはこうした失敗も起きてしまいます。移設したため井戸が遠くなり、野菜の水やりが大変になってしまいました。

ソープレムーさんは自分の家に穴を掘り、デイーゼエンジンを使ったポンプで水を汲み上げ、コミュニティガーデンへの供給を試みました。しかし燃料費の高騰で、それもできなくなりました。村人の努力だけでは、どうにもならない状況になってしまったのです。

ソープレムーさんからは「あと1年で、活動を続けるかを決めたい」という言葉も聞かれるようになりました。私たちもこれまで通り「魚の釣り方」だけを教えていれば良いのか、自問自答しました。

その結果「『命・生活』を守る」という基本に立ち返って、それを遂行するには水の確保が何よりも必要だという結論に至りました。水さえ確保できれば、あとは村人の頑張りでおのずと道が開けます。そこで今回は「魚」に当たる水貯蔵タンクを供給することになりました。(次回に続く)

Satoko Nachi

名知 仁子

名知仁子(なち・さとこ) 新潟県出身。1988年、獨協医科大学卒業。「国境なき医師団」でミャンマー・カレン族やロヒンギャ族に対する医療支援、外務省ODA団体「Japan Platform」ではイラク戦争で難民となったクルド人への難民緊急援助などを行う。2008年にMFCGの前身となる任意団体「ミャンマー クリニック菜園開設基金」を設立。15年ミャンマーに移住。

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キーワード: #サステナビリティ

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