今年2月初旬、英スーパーマーケット最大手のテスコ社が、カーボンフットプリントのラベルから撤退するという記事を、英メディアが配信し、英国の環境関係者の間でちょっとした騒ぎになった。
世界のカーボンフットプリントを牽引してきたテスコ社がカーボンフットプリントのラベリングから撤退するのが本当であれば、世界に与える影響は計り知れない。
テスコ社は、2007年1月からNPOのカーボントラストと共同で、約70,000ある商品の全てにおいて、カーボンフットプリントのラベル貼付を始めた。グリーンコンサンプション(環境に配慮した消費)に関する取り組みの一環だった。
この件について、筆者はテスコ社の企業責任マネージャーに確認した。回答は次の通りだった。
「私たち(テスコ社)は、2020年までに我々が販売する製品のCO2排出を30%削減するという目標設定、そして、2020年までに顧客に対してもカーボンフットプリントを50%削減する方法を探しだす手助けをするという目標を設定している。テスコは、この価値のある手法であるカーボンフットプリントのラベリングから撤退はしない」
テスコ社は、記事に取り上げられているようなカーボンフットプリントのラベルからの撤退はしないとのことだった。企業責任マネージャーは次のように説明を続けた。
「私たちは、カーボンフットプリントのラベルを商品に添付することに多くのメリットがあると認識して取り組んできたが、私たちがカーボントラストと一緒に開発をしてきたこのスキームは、未だ他の小売業者や製造者からは広く受け入れられていない」
「私たちの(ステークホルダーである)顧客からは、気候変動への取り組みをより進めて欲しいとの要望がある」
「私たちは、2008年から、カーボントラストと一緒に500の製品にカーボンフットプリントのラベルを貼ってきた。これらのラベルはこれからもこのスキームの下で使用していくつもりだ」
「そして、私たちはカーボントラストと一緒に取り組みをしていく中で、カーボンフットプリントのラベルについて多くを学んだので、これからはより早く、より安価な方法で、顧客に対して、より幅広い製品について、意味のある(カーボンフットプリントなどの)情報を提供するとともに、顧客とサプライヤーに対しても彼らのCO2削減の手伝いをすることを考えている」
カーボントラストとの作業では、1つの製品のカーボンフットプリントを計算するのに最低でも2-3か月を要し、1年に125個の商品しか新たにラベルの認証を得て貼ることができないとのことで、テスコ社の目標である約70,000の商品すべてにカーボンフットプリントのラベルを貼付するには、このままではあまりにも時間がかかりすぎてしまい、2020年までの目標を達成できないとの見通しをテスコ社は立てたようだ。
またカーボントラストとのカーボンラベルへの取り組みにおいては費用がかかりすぎることも要因としてあげられている。今後は、自社でカーボンフットプリントのラベルを発行していくものと思われるが、今後の予定についての内容はまだ企業秘密とのことで明かしてもらえなかった。
企業とカーボンラベルの発行業者との取り組む速度のギャップから発生したカーボンラベル撤退報道だが、テスコの言うグリーンコンシューマー(環境に配慮した消費者)に対する情報提供、またステークホルダーのニーズを満たすという点において、企業はより対応のスピードをあげることが求められている。
今回、テスコとカーボントラストの間に何があったのかは分からないが、メディアに「誤報」された責任の一端は、誤解を招いたテスコ社自身にあったのかも知れない。
テスコには2007年、キャスリン・ハムネット社とのオーガニックコットン衣料展開で、キャスリン・ハムネットから企業姿勢を問われ、契約を解除された「前科」もある。
環境やCSRなど社会に貢献する活動をしていても、レピュテーション・マネージメントが必要であるとの教訓がもたらされた一件であった。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)