「見える化」しないとCSRは伝わらない~欧州委員会の新戦略とは――下田屋毅の欧州CSR最前線(11)

在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅氏

欧州委員会が打ち出した新CSR戦略の重要テーマに、「CSRの見える化」と「模範事例の共有」がある。いずれも、欧州委員会コミュニケーション欧州連合の「新CSR戦略2011-2014」(2011年10月発行)で大きく取り上げられた。

企業がCSRに関して何をしたらよいかを公共認識として理解してもらうために、欧州連合としては、模範事例(グッドプラクティス)を共有すること、学びの場を広げていくこと、そして、企業がよりCSRに対して戦略的アプローチを展開できるように手助けをしていく。

「CSRの見える化」と「模範事例の共有」を実行する上で、CSRヨーロッパ(欧州のCSRを牽引するビジネスネットワーク)の「エンタープライズ2020イニシアチブ」が、CSR分野におけるビジネスのリーダーシップの例となり、欧州政策の目的に合致しているとして「新CSR戦略2011-2014」の中で取り上げられている。

その「エンタープライズ2020」は、欧州連合の成長戦略「欧州2020」のスマートで持続可能な包括的な成長を達成するための一環として発足した。そしてその目的は下記の通りだ。

①イノベーションおよび交流のプラットフォーム提供による企業の持続可能な競争力構築のサポート

②持続可能な将来のための新たな協同の方法を模索するとともに企業およびステークホルダーの密接な連携を強化する

③欧州連合の機関、団体およびさまざまな国際プレーヤーとの連携によるヨーロッパのCSRによるグローバルリーダーシップの強化

そのプロジェクトとして2011年~2013年の間、6つのトピックを優先順位の高いものとして焦点を当てCSRを促進しようとしている。

6つの優先順位の高いトピックとは、

①サプライチェーンと人権(持続可能なサプライチェーン、ビジネスと人権)

②健康と福祉(健康リテラシー:従業員の健康に関する知識の改善)

③高齢化と人口動向(「2012欧州活力ある高齢化年」に沿った、活力ある高齢化へのビジネスの貢献)

④ESGに関する情報開示とレポート(非財務情報の評価:重要な価値の推進力の特定、測定、管理)

⑤金銭(年金)に関する教育(欧州の若者・退職者に対する金銭能力)

⑥ベース・オブ・ザ・ピラミッド(BOP(発展途上国でのビジネス)におけるスマートで持続可能で包括的成長)

であり、トピックごとにCSRヨーロッパからプロジェクトマネージャー1人が派遣、また、CSRヨーロッパのメンバー企業が参画しており、①サプライチェーンと人権、では、日本の企業としては日立製作所がプロジェクトリーダーとしてヒューレット・パッカード(HP)やフォルクスワーゲンなどとともに参画し、イニシアチブを取っている。

このように欧州委員会が発表した新CSR戦略は、アジェンダに沿って推進されており、今回、ご紹介した「CSRの見える化」と「模範事例の共有」については、CSRヨーロッパなどとともに、欧州のすべての企業に対して、CSRをどのように推進すればよいかの道標を提供しようとしている。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)

<お知らせ>

サステイナビジョン株式会社では、この度「欧州委員会コミュニケーションペーパーCSRについての欧州連合新戦略2011-2014(2011年10月25日発行)」の和訳を作成、より多くの欧州進出の日本企業に無償提供し役立てて頂きたいと考えています。ダウンロードはこちらから

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下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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