記事のポイント
- 米ブラックロックCEOが「ESGという言葉を使わない」と発言した
- 共和党が優勢なフロリダ州やテキサス州を中心に「反ESG」の動きが高まる
- 今後、米国のESG投資はどうなるのか、日本国内の専門家6人に意見を聞いた
世界最大の資産運用会社である米ブラックロックのラリー・フィンクCEOが「ESGという言葉を使わない」と発言し、波紋を広げている。背景には、米フロリダ州など共和党が優勢の州で反ESG法が成立するなど、「反ESG」の圧力が高まっていることがある。米国の投資業界で何が起きているのか。6人のESG専門家に聞いた。(オルタナ編集部)

米ブラックロックのラリー・フィンクCEOは6月25日、アスペン・アイデア・フェスティバル(米コロラド州)で、「もうESGという言葉は使わない」と発言した。そのニュースが世界を駆け巡り、波紋を呼んだ。ESGは「環境・社会・ガバナンス」を指し、日本では「ESG投資」や「サステナブル投資」との言葉で普及してきた。
フィンクCEOの発言の背景には、米国における「反ESG」の動きがある。特にテキサス州やフロリダ州など共和党が優勢な州で、「反ESG」が広がった。
これらの州では、化石燃料産業が盛んで、脱炭素を含む「ESGの概念が広がると、化石燃料が否定される」との危機感がある。LGBTQなどジェンダー・マイノリティに対する反発も、反ESGのエンジンだ。
■デサンティス・フロリダ州知事「ESGは金融詐欺だ」
フロリダ州のロン・デサンティス知事(共和党)は2023年5月、「反ESG法」を成立させた。同知事は「ESGは金融詐欺だ」とまで言い切った。
反ESG法は、フロリダ州や州内の自治体による投資の選定時に、財務的要因だけを基準にし、ESG要素を考慮することを禁止した。ESG格付けを発行する格付け機関との契約を禁止したほか、州や地方政府による債券発行時のESG要素の利用を禁止した。
デサンティス知事は、8歳までの児童にLGBTについて教えることを禁じる、いわゆる「ゲイと言うな」州法を後押し、2024年大統領選挙への立候補を表明した。
同知事は、テネシー州やアラバマ州など18州の州知事と、米バイデン大統領のESG政策に対抗するための同盟を立ち上げた。
フロリダ州は2022年12月、ブラックロックの運用資産から20億ドル(約2700億円)の引き揚げを発表した。テキサス州はエネルギー産業を「ボイコット」しているとして、ブラックロックやパリバ、UBSなど10の金融機関に対し、州政府との取り引きを禁止した。
■フィンクCEOは「脱炭素」「気候」「ガバナンス」を強調
こうした「反ESG」運動に対し、ブラックロックのラリー・フィンクCEOは当初、「ESG問題に対する政治的反発がブラックロックに大きな影響を与えていない」としていた。
世界経済フォーラムのブルームバーグのインタビューに対して、同氏は「当社は各州から約40億ドル(約4200億円)のキャッシュフローを失った」ことを明らかにした。一方で、「2022年の長期フローでは4000億ドル(約58兆円)を獲得した。米国では、新たに2300億ドル(約33兆円)顧客から託された」とコメントした。
しかし、フィンクCEOは、政治的議論に巻き込まれるリスクを回避するために、「ESGという言葉を使わない」と発言したようだ。
ビジネスメディア「Quartz(クオーツ)」によると、2000年の年次レターでは、「ESG」を26回使っていたが、2023年は、「ESG」を使わない代わりに、「デカーボナイゼーション(脱炭素)」「気候」「ガバナンス」を多用している。
フィンクCEOは、「ESGを重視する方針は変わらない。脱炭素化に向けたレンズを持たなければ、ビジネスはできない」と明言した。
オルタナは今回の反ESG騒動を機に、国内の専門家6人に意見を聞いた。その内容は次の通り(順不同、敬称略)。
■「賛成」か「反対」かの議論は本質ではない
(荒井勝・日本サステナブル投資フォーラム法人会長)
■NZIAからの相次ぐ離脱に「反ESG」の影
(浅野達・SMBC日興証券シニアESGアナリスト)
■フィンクCEOの真意は、「今後もESG投資を強化」
(金井司・三井住友信託銀行フェロー役員)
■ESG規制と反ESGに関連性はない
(葎嶋(むぐらじま)真理・富国生命投資顧問チーフESGアナリスト)
■米国の「反ESG」過熱、半分は事実、半分はウソ
(水口剛・高崎経済大学学長=金融庁サステナブルファイナンス有識者会議座長)
■いずれESG投資を重視せざるを得なくなる
(横山隆美・一般社団法人コーポレート・アクション・ジャパン理事、元富士火災海上保険=現AIG損保=社長)