記事のポイント
- ユニリーバやP&Gなど「リバースメンタリング」を導入する企業が相次ぐ
- リバースメンタリングでは、若手社員がメンターとして、役員などに助言する
- 役員は若者の価値観を知ることができ、若手社員は視座の高さを学ぶ
若手社員が「メンター」として、社長や役員にアドバイスする「リバースメンタリング」を導入する企業がじわり増えてきた。P&Gやユニリーバ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどだ。役員は若者の価値観を知ることができ、若手社員は視座の高さを学ぶ。(オルタナS編集長=池田 真隆)
「リバースメンタリングを経験したことで、マインドが変わった。臆せずに発言できるようになった」。ユニリーバ・ジャパン入社3年目の中野文枝さんはそう話した。
同社では、2020年にリバースメンタリングを導入した。一人の役員に新入社員が1~2人メンターとして付き、アドバイスする。社長のメンターになる新入社員もいる。9月ごろから始めて、約半年間にわたり、毎月1回メンタリングを行う。

同社は新入社員を「未来の幹部候補生」という観点から育成する。役員との対話の機会を設けることで、視座の高さや経営戦略への理解を養う。役員は、新入社員の不安や悩み、会社への期待などを聞くことで、自身の価値観をアップデートできる。アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の防止にもなる。
■役員に「気遣い」から質問できず
2021年に入社した中野さんは、ファイナンス部門の役員向けにリバースメンタリングを行った。中野さんの配属は営業統括本部で、ファイナンスの知識はなかった。
「言語レベルも視座も視野も違った。最初は会話が続かなかった」と振り返る。リバースメンタリングを始めた当初は、会社のことを十分に理解しておらず、話題が見つからなかった。
「役員の時間を頂いているので、失礼なことは聞いてはいけないと勝手に思い込んでもいた」(中野さん)
一方、役員からはざっくばらんに質問が来る。「なぜこの会社を選んだのか」「若い人が夢中になっていることは何か」「普段、どんなシャンプーを使っているのか」。
「若者視点を学びたい。どんなことでもいいから話してほしい」という役員の姿勢に、実体験をもとに話そうと決めた。
毎月1回30分から1時間のリバースメンタリングの回数を重ねていくと、会話も続くようになった。中野さんからの質問も増えた。
「どのようなことでも話していいと思えた。上司とも気兼ねなく話せるようになった」と心理的安全性の向上についても言及した。
サステナビリティ活動にも有志として関わりたいと申し出ることができた。同社が展開する「UMILE(ユーマイル)プログラム」だ。ユニリーバは2025年までに全世界で「日再生プラスチックの使用量を50%削減」「販売量よりも多くのプラスチックパッケージの回収・再生を支援」することなどを目指している。そのためには、自治体や小売店、消費者の協力が不可欠だ。
そこで立ち上がったのが、「UMILEプログラム」だ。消費者は「ユニリーバのつめかえ製品を購入する」または「小売店や駅などに設置した回収ボックスに、同社のシャンプーなどの使用済みパッケージを入れる」ことでLINEポイントやエコグッズ、寄付に交換できるポイントがもらえる。
中野さんは、「営業統括本部には経験豊富なベテラン社員が多い。営業スキルだけでなく、自身のプレゼンスを高め、付加価値を出すためにも関わりたいと申し出た」と話した。
■多様な部下への理解深める
リバースメンタリングを実施する際には、直属の部下以外をメンターにすることがポイントだ。
2014年から導入するP&Gは、管理職・役員と数ランク下の社員を組み合わせる。直属の部下以外で、部下と同じ年代もしくは同じ状況下にある社員をメンターにする。社員一人ひとりの多様な個性を尊重するため、上司は多様な部下に対する理解を深めることを狙った。
リバースメンタリングはゼネラル・エレクトリック(GE)が1990年代後半に導入したのが先駆けだ。ユニリーバやP&G、ジョンソン・エンド・ジョンソン、国内企業では資生堂などが導入している。