DEIの旗を降ろしたのはトランプ氏に屈した一部企業だけ

記事のポイント


  1. 米マクドナルドやメタなどが相次ぎ、DEI(公正性など)の方針を取り下げた
  2. ただし、その数は10-20社にとどまり、NY上場企業の1%程度と見られる
  3. 背後にいるトランプ氏に企業が屈するかはステークホルダーも見ている

米メタや米マクドナルド、トヨタ自動車などが相次いで、DEI(多様性、公正性、包摂性)に関する方針を変更すると発表した。背景には、保守活動家による反DEI運動や「逆差別」訴訟がある。ただし、その数は現状10-20社にとどまり、NY上場企業の1%程度と見られる。多くの企業は様子見だが、背後にいるトランプ氏に屈するかどうかは、多くのステークホルダーも見ている。(オルタナ編集長・森 摂、オルタナ副編集長・吉田 広子、同・北村 佳代子)

米オハイオ州立大学敷地内にあるマクドナルド
米オハイオ州立大学敷地内にあるマクドナルド

■マクドナルドのほか、トヨタや日産も

米マクドナルドは1月6日に公表した声明で、「DEIに対する姿勢と取り組みは揺るぎない」としたものの、多様性の目標設定や、サプライヤーに求めていたDEI 誓約を廃止すると発表した。

目標設定の代わりに、日常の業務にインクルージョンを組み込むことに注力するという。外部調査も一時停止する。合わせて、DEI推進チームの名称を「ダイバーシティチーム」から、「グローバル・インクルージョン・チーム」に変更した。

同社は、「米最高裁が2023年6月、大学入試の人種優遇措置(アファーマティブアクション)は違憲」と判断したことで、法的環境が変わり、他社の動向も踏まえた結果、方針を転換したと説明する。

すでに米小売り大手のウォルマートや米フォード・モーター、米ハーレーダビッドソン、トヨタ自動車、日産自動車などがDEI施策を縮小することを発表した。

だが、その後、米マクドナルドはアファーマティブアクション団体のアメリカ平等権同盟(American Alliance for Equal Rights)から12日に提訴された。

■DEIの起点は、ジョージ・フロイドさん事件だった

そもそも「DEI」が米国を起点に世界に広がったのは、は2020年5月、アフリカ系アメリカ人の黒人男性ジョージ・フロイドさんが、ミネソタ州ミネアポリス近郊で、警察官の不適切な拘束方法によって殺害された事件がきっかけだった。

この事件以降、全米でBLM(黒人の命は大切だ)運動と暴動が全米で多数、発生した。これが企業行動にも影響を与え、それまではダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂性、多様な人たちを組織に取り込むこと)というD&I運動が、公正性を強調した「DEI」に発展していった。

■「公正性」の旗を降ろすのは利害関係者への裏切り

これにより、性別、国籍、文化、障がいの有無など多様な人たちを企業組織の中に取り込み、こうした多様な人たちが、組織に「公正」に守られるという企業行動は、多くの株主や顧客にも評価され、日本を含む世界各国に急速に浸透していった。

ただ今後、DEIの旗を降ろす企業は一部にとどまると見られる。いったん掲げた「公正性」の旗を降ろすのは、その企業を信頼していた株主、顧客など多くのステークホルダーの期待を裏切る行為になりかねないからだ。

(この続きは)
■アファーマティブアクションに逆風、訴訟も続発
■米コストコや米アップルは保守派の株主提案を拒否
■ロビー・スターバック氏という活動家が暗躍
■「世界最高の製品を作ることと同じくらい、私たちの行動が重要」

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yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #ジェンダー/DE&I
  1. Ryuji(Ron) TSUTSUI
    Ryuji(Ron) TSUTSUI
    2025/01/15 2:25

    時宜にかなった記事をありがとうございました。新政権による反ESG圧力が顕在化する前からこのような方向転換を図る経営者には大いに失望します。掲げたESG方針を信じ、賛同して入社した社員や商品を選んだ消費者に対してはどのような説明責任を果たすのか? 企業経営者になるには国家試験もなく、社内ポリティクスや「引き、ツキ、空き」に恵まれた人が多いのも事実ですが、経営トップが何代も先まで引き継ぐべきと覚悟してESGを推進してきたのか、時流に乗っただけなのか、化けの皮が徐々にはがれてきたと実感します。

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