水上 武彦(株式会社クレアン)
CSV/シェアード・バリューは、経営戦略のコンセプトです。基本的なCSR は、すべての組織が「社会的責任」として対応すべきもので、これについては、ISO26000 などのガイドラインがあります。一方、CSV/シェアード・バリューには、ガイドラインなどはなく、個々の企業が独自の考えのもとに戦略的に対応すべきものです。
企業がCSV/シェアード・バリューに取り組むのは、そうすることが、企業にとってメリットがあるからです。社会問題の解決を事業機会と捉え、自社の強みを生かしてビジネスを創出するのは、(長期的な取り組みが必要なことも多いですが)利益を求めてのことです。戦略的CSR または戦略的社会貢献活動として、バリューチェーンや競争基盤を強化する取り組みを行うのは、競争力を高めるためです。
私は、仕事柄、「わが社のこの活動は、CSVと言えるのか」といったような質問を受けることもあります。CSV/シェアード・バリューは、社会と企業の両方に価値を生み出す活動ですが、日本の多くの企業は、CSV/シェアード・バリューと言える活動を、ある程度はすでに実施しています。上記の問いに対しては、よほどこじつけたロジックでない限り、「CSV/シェアード・バリューと考えて差し支えないと思います」という答えになります。
しかし、CSV/シェアード・バリューは、価値を生み出すためのものですので、「これだけやれば十分」ということは、ありません。継続的に「新しい活動を生み出す」か「既に実施している活動の価値をさらに高める」ための戦略フレームワークです。すでに実施している活動を整理して、評判を高めるコミュニケーションのために使うこともできますが、それは本質的用途ではありません。
CSV/シェアード・バリューは、本質的には、企業が他社と差別化するために行うものです。そのため、先進企業では、対外的に公表せず、密かに行うこともあります。もちろん、株主に自社の価値創造の考え方として伝えること、幅広いステークホルダーに社会に価値を生み出していることをアピールして評判を向上するために伝えることもできます。