記事のポイント
- 日本製鉄によるUSスチール社買収に、トランプ米大統領は承認の意向を示した
- 日本製鉄は、USスチール社が保有する石炭ベースの高炉の延命を約束している
- 石炭依存から脱却しないビジネスモデルに、地域や環境NGOから批判の声も
日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール社の買収に、トランプ米大統領は承認の意向を示した。民間企業による買収案件が、「米国の安全保障上の懸念」から政治問題に発展し、その二転三転する行方には大きな注目が集まる。一方、環境負荷の視点では、日本製鉄がUSスチール社の老朽化した石炭ベースの高炉を改修すると約束しており、「石炭の延命」だとして地元住民や環境NGOらから批判が集まっている。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

USスチールが本社を置く米ペンシルバニア州ピッツバーグは、古くから「スモーキーシティ(煙の都市)」として知られる。ペンシルバニア州をはじめ、同社製鉄所の近隣住民は長年、大気汚染などの公害問題で、同社と闘ってきた。
2023年12月、日本製鉄が約149億米ドル(約2.1兆円)でUSスチール社の買収を提案すると、この報道を知った地域住民は、日本製鉄による製鉄所のクリーン化・近代化の推進を期待した。
投資家もまた、脱炭素化を進めるバイデン政権(当時)の下で、この買収は産業部門の脱炭素化を後押しするものとして政策環境の恩恵を受ける好機になるだろうと見なした。
参考記事:USスチールは大気汚染企業だった:地元住民から日鉄に期待も
■日本製鉄の「高炉継続」方針で、期待は落胆に
しかし、2024年8月に、日本製鉄が、「USスチール社の高炉の継続稼働に向けた、約13億ドル(約1850億円)の追加投資」を発表すると、そうした期待は落胆に変わった。
この発表には、老朽化した高炉を改修して継続稼働にコミットすることで、労働組合からの支持を得て、米国側の懸念を和らげたいとの日本製鉄側の思惑もあったと推察する。
2024年12月には、日本製鉄がUSスチール社の従業員に宛てた書簡の中で、モンバレー製鉄所(米ペンシルベニア州)の高炉2基とゲーリー製鉄所(米インディアナ州)の高炉4基を2030年までに改修して、「長期にわたり健全な稼働を継続させる」ことへのコミットメントも示した。
しかしこうした動きは、「石炭を使用する高炉生産に依存し、脱炭素化の流れに逆行するビジネスモデルを継続する姿勢が露呈する結果となった」と、鉄鋼セクターに特化した国際NGOのスティールウォッチは指摘する。
同NGOは2025年5月、報告書「日本製鉄 気候変動対策の検証2025:慎重を期す時から、行動の時へ」をまとめた。
■「石炭依存への固執は将来にとって致命的」
それによると、日本製鉄の高炉改修投資の発表を機に、米国の市民社会団体は、「脱炭素化の流れに逆行し、GHG(温室効果ガス)排出と大気汚染の増加につながる恐れがある」として厳しい批判を寄せた。
米国最大かつ最古の草の根環境団体・シエラクラブは、この発表を受けて買収に反対の立場を表明し、気候変動・雇用・大気汚染の観点から議会に対して反対を求めるロビー活動を展開した。
USスチール社の製鉄所周辺に拠点を置く地域の環境団体や公益団体も、高炉への継続的な投資に強く反対した。彼らもまた、「石炭依存に固執する日本製鉄の姿勢は、USスチール社の将来にとって致命的だ」との懸念を議会に伝えている。
2025年1月3日にバイデン前大統領が、買収計画に対して中止命令を出すと、シエラクラブは、「2050年まで、鉄鋼の製造に石炭の使用を固定化する買収計画が拒否された」ことを「勝利」と称して声明を発表している。
■株主総会で問われた日本製鉄の気候変動対応
■株主提案が「異例の高さの支持」を得る
■日鉄はエンゲージメントや情報開示を改善した
■真に問われるのは石炭依存からの脱却