記事のポイント
- 経産省では、2025年度以降の電力システム改革の制度設計についての議論が進む
- 議論を見ると、化石燃料依存を正当化し、原子力や火力の新技術へのファイナンスも検討中だ
- 複数の環境NGOが、国際的な方向性に整合させるよう意見を出した
経産省・資源エネルギー庁では、2025年5月に発足した次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会にて、電力システム改革の検証を踏まえた制度設計の在り方についての議論が進む。しかし、これまでの審議会の議論内容を見ると、化石燃料への依存を正当化し、原子力や火力の新技術へのファイナンスを検討するなど、電力システム改革を逆戻りさせる動きも見られている。複数の環境NGOは10月8日、審議会に対して、化石燃料からの脱却という国際的な方向性に整合させるよう意見を提出した。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

■「再エネ促進に優先して注力すべき」
認定特定非営利活動法人FoE Japanは、審議会が「これまでの改革や自由化によって大手電力の大規模電源維持が難しくなっていることを理由に、改革前の方向に逆戻りさせるような議論が行われている」と指摘する。
審議会では、「大規模な脱炭素電源」の新設について、円滑な資金調達が非常に困難であることを理由に、政府によるあらたなファイナンス支援が必要だとしている。
これに対しFoE Japanは、「世界の気温上昇を1.5℃までに抑えるために、できる限り早期に大幅に、コストも抑えながら温室効果ガスを削減するという視点を加えるべき」で、「技術の選択についても方針転換や変更ができるようにしておくべき」だとの意見を表明した。
特に、「世界では再エネのコストが大きく下がっており、すでに確立されて技術である再エネの促進に優先して注力すべき」だと強調した。
■「電力需要の過大な見積もりへの注意も必要」
またFoE Japanは、今後の電力需給のシナリオ策定についても省エネの可能性を最も重視して精査すべきとし、「需要が増えるシナリオに備えるのではなくいかにして下げることができるかという視点で政策形成すべき」だと提唱した。
そして、日本におけるデータセンターを含む情報通信分野の電力消費量は2022年時点で約2%と推計されており、今後の見通しも2030年に3%、2035年に4.2%、2040年に6.1%と日本全体への影響は大きくないことから、「電力需要の過大な見積もりへの注意も必要だ」とした。
一方で、「原子力については特に、建設期間が長期にわたり、将来的にもコスト上昇のリスクが大きい」ことから「建設段階からの政府からの支援措置は行うべきではない」とした。
原子力に加えて、水素・アンモニア混焼、専焼やCCSなどの脱炭素火力技術についても、「現時点ですでにコストが高く、技術的見通しも不透明」であり、「将来脱炭素化実現も不透明で、温室効果ガスの大量排出を温存するおそれがある」ことから、政府からの支援措置は行うべきではない、との意見を表明した。
そして、「『政府の信用力を活用して融資を行うなど、民間金融を量的に補完する方策を含め、資金調達の円滑化に向けた対応の具体化』は撤回すべき」とした。
FoE Japanの提出した意見の全文はこちら
■「CO2排出を固定化する元凶を見直すべき」
特定非営利活動法人気候ネットワークもまた、意見書を提出した。
電源投資を取り巻く現状と課題について、「『安定供給の確保が大前提』とし、脱炭素の両立を謳いながらも実質的に化石燃料への依存を正当化している」とし、「これは、気候変動対策の緊急性や国際的な脱炭素(化石燃料からの脱却)との整合性を損なうもの」と断じた。
また、審議会が、電力の安定供給の確保を前提として、「容量市場、予備電源制度、長期脱炭素電源オークションなどの制度的措置を講じて対応を行ってきた」とし、今後も継続する方針を示していることについても、「これらのしくみが石炭火力を含め火力を維持温存し、CO2排出を固定化する元凶であり、抜本的に見直すべき」との見解を示した。
そして、論点となっている「投資環境の整備」については「気候リスク」についての議論が不十分であることを指摘した。気候ネットワークは、「国際的には炭素リスクを織り込んだ投資判断は主流であり、日本の制度設計をこの配慮なしで進めることは脱炭素投資の遅れと国際競争力の低下にもつながる」とした。
そして、「容量市場や長期脱炭素電源オークションなど容量メカニズムを見直し、再エネと再エネ最大限導入に必要な柔軟性措置で大胆なエネルギーシフトをし、海外に燃料を依存せず、エネルギー自給率を高め、環境に最も配慮した3Eの同時達成を実現できる電力システムを構築するために新たな容量メカニズムを構築すべき」と提唱した。
■「小売電気事業者の供給能力確保義務には反対」
気候ネットワークはほかにも、「小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方」についても、地域新電力のような小規模で再エネ調達を積極的に行う事業者に極めて不利な内容になっているなど、多数の問題点があることから、小売電気事業者の供給能力確保義務に「反対」との姿勢を明らかにした。
本制度はかねてJERAが主張してきた内容になっており、電力価格が高騰した2020年度も含めて4年もの間、相場操縦を行っていたJERAの意見に、国が追従する姿勢に対しても強い懸念を表明した。
なお、JERAの相場操縦についてはオルタナでも2024年11月22日に報じた。
ご参考:JERAの「相場操縦」、不当な利益は1日最大で「1億円」に
■「再エネの主力電源化を徹底すべき」
気候ネットワークもまた、電力システム改革にあたっては、第7次エネルギー基本計画にも記されたとおり、「再エネの主力電源化を徹底するべき」との意見を表明した。また、審議会で進行中の議論からは、再エネの主力電源化よりもLNGの調達やLNG火力等の活用を強化する方向性が見て取れる、と指摘する。
その上で、「現在の電力システム改革の方向性は、G7の『2035年までに電力の大宗を脱炭素化させる』、COP28での『化石燃料からの脱却』との合意から明らかに逸脱しており、パリ協定にも違反している。電力システムの中心に再エネ普及を据えるよう、抜本から見直すべき」と断じた。
気候ネットワークは、意見募集プロセスについても、「本制度設計の方向性は極めて重要であるにもかかわらず、意見募集が行われていることがわかるページが『第2回次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会』のサイトだけで、意見募集が積極的に行われているとはいいがたい」と問題提起した。
その上で、「今回の意見募集とは別に、影響の大きい小規模な小売事業者から積極的にヒアリングを行うべき」との意見を表明した。
気候ネットワークが提出した意見の全文はこちら
(ご参考)
・次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/index.html
・電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループhttps://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/system_design_wg/index.html