映画「グレタ ひとりぼっちの挑戦」が10月22日から全国で順次上映される。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんを1年あまり追ったドキメンタリーだ。人と話すのが苦手な15歳の少女が、ひとりで「学校スト」を始めた時から、国連の気候行動サミットで演説するまでを時系列で追った。ネイサン・グロスマン監督は、一少女の思いが世界中の若者を動かすようになった経過を描くことに成功している。(在パリ編集委員 羽生のり子)
■手書きのプラカードでひとりで始めたストライキ
2018年、グロスマン監督はトゥーンベリ一家を知る友人から、グレタさんがスウェーデンの国政選挙前に気候変動問題を訴えるため、国会議事堂の前でストをする話を聞き、現場に赴いた。グレタさんはこの時、「気候のための学校ストライキ」と手書きしたプラカードを置いてひとりで心細そうにすわり、監督の質問にトツトツと答えていた。級友からは仲間外れにされ、話す相手は家族だけだったという。その彼女が数ヶ月後には数々の国際会議で堂々と演説し、メディアの取材を受け、同志の若者たちと交流するまでに成長した。
グレタさんは8歳の時、学校で環境問題についての映画を見てショックを受けた。食べ物がのどを通らなくなり、塞ぎ込むことが増えた。後にアスペルガー症候群と診断された。映画の後半、母のマレーナ・エルンマンさんが過去を思い出し、「他人と食事できるようになるとは夢のようだ」と涙を浮かべるシーンがある。考えをシンプルに行動に移したことで、グレタさんは大きな渦を引き起こす水の一滴のような存在になったが、自分自身も大きく変わったのだ。
■「家に帰りたい」と心情を吐露する一面も
映画はグレタさんの意思の強さだけでなく、弱い面も見せている。飛行機に乗るのを拒否し、ヨットでニューヨークまで航海する間ホームシックにかかり、「家に帰りたい」と心情を吐露した。
演説の最中には、気候変動のせいで滅びつつある生物を思い、感情がこみあげて涙ぐんだ。奇異な振る舞いと捉えられるかもしれないが、ニュース報道に出てこないグレタさんの人となりに触れた後には、彼女の自然な反応だと感じられよう。
グロスマン監督は「気候変動問題よりもグレタさん個人に焦点を当てた」と語っている。映画を見た後、グレタさんがより身近になった。
■グレタさんたちが要求するのは具体的な対策と行動
グレタさんがストを始めてから3年が経った。その間、さまざまな国や企業が炭素排出削減目標値を設定し直したが、グレタさんや世界の若者が指導者たちに要求するのは、具体的な対策と行動だ。2021年8月に出た「気候変動の政府間パネル(IPCC)」の第6次評価報告書は、これまで以上に気温上昇を1.5度に抑える必要性を示している。
10月31日から英国グラスゴーで、第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が開催される。気候変動対策の正念場と言われるこの会議に、グレタさんも参加するという。COP26と同じ時期に上映されることで、この映画の持つ意義がより大きなものになった。