※この記事は、株式会社オルタナが発行する「2026年版サステナ経営検定2級テキスト」から抜粋したものです。社内教育などにもお使いください。当社への許諾は不要です。PDF版のダウンロードはこちら
■「2015年」は偶然ではなかった
本書でいう「サステナ経営」とは、「サステナブル経営」の略語です。英語の世界ではsustainability management や、sustainable business practicesなどという表現も使います。その意味は、言葉通り、「持続的な経営」です。それは、企業だけでなく、従業員やその家族、そして社会や国家、さらには地球環
境全体が「持続可能な存在」になることを意味します。
サステナ経営の領域で、世界的に大きな動きがあったのは「2015年」です。下記の通り、日本版コーポレートガバナンス・コード、SDGsやパリ協定などの大きな枠組みの多くはこの年にできました(下表参照)。
一見、偶然のように見えますが、そうでもありません。特に、国連気候変動枠組条約とSDGsは、コフィ・アナン第7代国連事務総長(任期1997年1月~2006年12月)が大きな役割を果たしました。アナン氏は事務局長就任早々の1997年12月、COP3(第3回国連気候変動枠組条約締約国会議)の京都会議で、地球温暖化対策の国際枠組みである京都議定書の早期発効と、各国による批准を強く求め、気候変動問題解決への貢献を世界に訴えました。
その京都議定書が2005年2月に発効した際には、各国に温室効果ガス削減目標への参加を呼びかけ、気候変動問題の深刻さと国際社会の協力の重要性を強調しました。こうした流れが、2015年の「パリ協定」に至ったのです。
SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)の成立(2000年)を主導したのもアナン氏です。同氏は2006年、ESG(環境・社会・ガバナンス)の概念を初めて盛り込んだ「国連責任投資原則」(PRI)の採択に尽力しました(9ページ参照)。
こうした流れによって、9年後の2015年、日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIへの署名をするに至り、これを機に、日本の金融機関や事業会社の意識も大きく変わりました。
アナン氏は、気候変動や人権、貧困など世界的な社会課題を解決するには、各国政府による環境目標(パリ協定で実現)や、お金(投資)の流れを変えるのが最善と気が付いたのです。
アナン事務総長はさらに、ジョン・ラギー・ハーバード大学教授に 「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年)を執筆してもらい、これが現在の人権領域においての世界標準になりました。
■「サステナ経営」の定義と意義とは
ここで改めて、「サステナ経営」を定義します(2026年改訂版から追補)。
❶サステナビリティ(持続可能性)をあらゆる経営判断に組み込み、企業価値と社会価値を同軸化し、社会課題の解決を通じて、事業創造すること(アウトサイドイン・ビジネスアプローチ、15ページ参照)。これにより、社会に存在する「未来の顧客」を顧客化(顧客創造)することを含む。
❷サステナ領域で発生しがちなリスク(環境/社会[人権]/ガバナンス、人的資本、ウェルビーイングなど)を未然に防ぎ、そのリスクを機会に変え、競争優位を確立すること。
❸ 上記を実現するため、さまざまなステークホルダーと対話を重ね、これにより、自社が社会においてより持続的な存在になることを目指すこと。
サステナ経営やESG経営は、現代の経済社会において、主に上場企業の株価対策と見る向きがあります。サステナ経営を推進し、ESG(非財務)情報を発信することで、自社の株価上昇を期待するのです。
しかし、サステナ経営は当然、上場企業だけのものではありませんし、そのメリットは、株価だけではありません。特にこれからは「人的資本経営」の文脈が重要になります。小中高でSDGsを学習し、環境や人権などサステナビリティ課題への意識や知識がある「α世代」がやがて社会人になり、社会の主力になる時代がやって来ます。
米PR会社エデルマンによる「トラストバロメーター」調査によると、「社会課題に向き合う企業ほど、社員から共感され、支持されやすい」ことも明らかになりました。人材獲得競争が激しいわが国において、より多くの優秀な社員を採用し、より長く勤めてもらうためには、サステナ経営は必須です。
環境、特に脱炭素の取り組みは、昨今の苛烈な気候災害で明白な通り、世界の平均気温上昇を食い止めることが社会全体の課題です。温室効果ガス(GHG)排出量が大きい企業ほど、社会からの要請が高いのです。人権については、サプライチェーンにおける児童労働などの問題のほか、近年の日
本でも問題になっている貧富の格差の問題も重要です。
こうしたさまざまな社会課題に向き合い、ビジネス(事業)を通じて解決することが、社会から信頼され、長続きしていく企業風土をつくるのです。これらの取り組みは、企業内のイノベーション(技術的なものだけでなく、組織的・社会的イノベーションを含む)を活性化し、企業をより強くすると私たちは信じています。(オルタナ創刊編集長・森 摂)



