記事のポイント
- 削減貢献量は社会全体のGHG排出量の削減に貢献した度合いを示す考え方だ
- WBCSDが公表済みのガイダンスに加え、2月には国際規格も発行する
- だが、開示の方法を誤るとグリーンウォッシュのリスクもある
削減貢献量は社会全体の温室効果ガス(GHG)排出量の削減に貢献した度合いを定量化する考え方だ。約200社のグローバル企業のトップによって構成する「持続可能な開発のための経済人会議(WBCSD)」がガイダンスを公表済みで、今年2月には新たな国際規格も発行する見込みだ。だが、削減貢献量は開示の方法を誤るとグリーンウォッシュとして批判を受ける対象になりかねないリスクもある。投資家などステークホルダーから正当な評価を受けるには、どのように取り扱うべきか。(オルタナ総研フェロー=池原庸介)

企業は、炭素効率の良い自社の製品・サービスなどを提供することにより、社会全体の排出削減に貢献することが可能である。削減される温室効果ガスの排出量を定量化したものが「削減貢献量」であり、一定の想定や仮定を置いた上で算定される。
企業自身のGHGインベントリとは別物であり明確に区分けされるが、企業にとっては自社の事業が脱炭素社会の実現に貢献している度合いを示すことで、投資家や消費者などに訴求する有効な材料となり得る。
実際、電機・電子や素材などを中心に、様々な業種において削減貢献量に関する情報開示の動きが見られる。2025年7月、「持続可能な開発のための経済人会議(WBCSD)」が削減貢献量に係るガイダンスの改訂版を公表し、26年2月には国際電気標準会議(IEC)が削減貢献量に係る国際規格「IEC63372」の発行を予定するなど、あらためて注目が集まっている。
ただし、削減貢献量に関する対応や情報開示のやり方を誤ると、訴求材料どころか「グリーンウォッシュ」として批判の対象となりかねないため注意が必要である。
日本では、京都議定書の第1約束期間(2008~12年)の頃に削減貢献量に関する議論に火がつき、特定の業種においてその活用が広がっていった。その1つが電機・電子であり、2010年代前半には削減貢献量に関する目標設定やその進捗に係る情報開示が業界トレンドとなっていたが、中には不適切な開示事例も散見された。
その代表例が、自社の排出量(スコープ1+2、またはスコープ1+2+3)から削減貢献量(組織単位)を差し引いた数値を将来的にゼロ以下にすることを温暖化対策の目標とするといったものであった。
類似の目標例として、削減貢献量を自社の排出量で割った値を1以上にすることを目指すといった変形パターンも見られた。これらはいずれも、ある意味で排出量の「オフセット」の考え方に類する目標設定といえる。
その根底には、自社の環境負荷を上回る環境貢献を実現すれば社会的責任を果たしたことになるであろうという考え方があり、これは一見理に適っているように見えるかもしれない。
■自社のGHG排出量から差し引いてはいけない
しかしながら、仮に削減貢献量の大きな製品の販売を徹底的に増やしてゆけば、たとえ自社の排出削減があまり進まなくても達成し得る目標ともいえる。
これでは現在世界がパリ協定で目指す2050年までの脱炭素化と整合した目標でないことは明らかであろう。
気候変動対応の優先順位としては、WBCSDのガイダンスでも示しているように、まずは自らの排出削減(スコープ1,2,3)を積極的に進め、その上で削減貢献量にも取り組むべきである。

また後述のように、そもそも自社の排出量と削減貢献量とを数字として引いたり割ったりすること自体が不適切と見なされる。
本記事では、過去15年以上に渡り削減貢献量に係る国内外の議論を見てきた著者の視点から、企業にとっての注意点や適切で効果的な対応方法について解説していく。
■保守的な参照シナリオを構築しよう
削減貢献量の算定方法に係る主要な論点の中から、日本企業にとっても注意が必要なものをいくつか紹介する。
削減貢献量の算定では、脱炭素化に向けたソリューションとして炭素効率に優れた製品・サービスを社会に提供することにより、そうしたソリューションがなかった場合(参照シナリオ)に比べて生じ得る排出量の減少分、即ち参照シナリオとの差分を試算することになる。
参照シナリオとはあくまで仮説に過ぎず、絶対的な1つの正解があるという訳ではないが、自社の貢献をなるべく大きく示したい思惑が働き恣意的なシナリオを想定してしまうと、削減貢献量が過大に評価され、「グリーンウォッシュ」との印象を与える恐れがある。
WBCSDガイダンスでは、提供するソリューションが代替し得るベースラインとしてのシナリオ群の中から最も現実的なものを参照シナリオとして採用し、可能な限り具体的且つ保守的な想定を置くことを求めている。
そのためには、平均的なソリューションに係る市場データや既存製品の販売データ、政策動向、業界固有の知見、顧客の固有情報などによって裏付けられる詳細な前提条件に基づき、対外的にも納得感のある保守的な参照シナリオを構築することが重要である。
保守的な想定を試みる際に大きな課題の1つとなるのが、既存製品のリプレースに係る問題である。
■「買い替え」前提の妥当性を疑うべき
たとえば、新たに開発したエネルギー効率の高い製品による削減貢献量を算定するに当たり、顧客である製品の購入者側が旧型の既存製品から買い替えることを前提として計算されるケースも見られるが、そうした想定が本当に妥当であるかにも注意する必要がある。
この場合、購入者によっては単に新型製品を追加的に購入しているだけで、旧型製品の使用も継続しているケースは十分あり得る。そのため、旧型から新型へのリプレースのみを前提に参照シナリオを描くと、削減貢献量を過大評価してしまうことになる。
特に、製品の購入者が一般消費者となるB to Cの場合は、家電や自動車などを2台目、3台目として買い足しているケースは少なくないと考えられる。
B to Bの場合には、事業所内での設備更新などに伴うリプレースが多いと考えられるが、設備の増設などに伴う追加導入のケースもあり得る。前者のリプレースであれば、たとえば既存設備の製品寿命が終わる時点でリプレースが実施されると想定するのが1つの選択肢となるが、実態を把握することは容易ではないため、どうしても不確実性は残る。
WBCSDガイダンスでは、リプレースに関する考え方や方向性についても一定の整理を示してはいるが、やはり購入者側の完全な実態把握は困難であるため、入手可能なデータなどに基づきつつ、最後のところは何らかの仮定を置く必要があるだろう。
■削減貢献量に独自の分配率を設ける企業も
■削減貢献量は必然的に不確実性を伴う
■「他社比較」ではなく戦略性を重視しよう
■気候移行計画に則った削減貢献量の開示を
■削減貢献量を企業価値につなげる3ステップ

