日鉄の米製鉄所改修に地域は反発、「グリーン投資こそ好機」との調査も

記事のポイント


  1. 日本製鉄は2026年5月、米インディアナ州のUSスチール製鉄所の改修に着手する
  2. しかし現地では、大気汚染などへの懸念から地域住民からの反発も強い
  3. 米大学研究所は、「グリーン投資こそが国際競争力の面でも優位」との調査結果も

日本製鉄が米国で進めるUSスチール製鉄所のリライニング改修計画が、地元住民からの反発にあっている。米現地の大学研究所は4月2日、グリーン投資が経済・地域社会に恩恵をもたらし競争力の強化にもつながるとの調査結果を出した。鉄鋼業界の脱炭素施策に詳しい国際NGOスティールウォッチの石井三紀子キャンペーン担当に寄稿してもらった。(オルタナ編集部)

日本製鉄が来る2026年5月に着工を予定する、米インディアナ州USスチールゲーリー製鉄所のリライニング改修(高炉内部を覆う耐火レンガの摩耗や損傷を改修する作業)を巡り、反発が高まっている。

米メディアシカゴ・トリビューン紙は2026年3月、地元団体が製鉄所からの排出に関する情報不足を理由に、州政府機関に対して改修許可の交付延期を要請したと報じた。日本製鉄は、改修が地域社会ひいては事業にとって正しい選択なのか、再検討する必要がある。

石炭を使った高炉の改修は、現在進行するインディアナ州北西部の雇用減の解決策にはならない。

2026年4月2日に発表された報告は、2034年までに雇用が失われるリスクを指摘する。それに対し、ゲーリー製鉄所にグリーン投資が実行されれば、最大約5万9000人の新規雇用を生み出し、同製鉄工程の年間CO2排出量を410万トン削減することが可能になる。

USスチールゲーリー製鉄所
Credit: Just Transition Northwest Indiana / Matthew Kaplan

■日本製鉄によるゲーリー製鉄所高炉改修は「衰退への道」

現在、米国の鉄鋼生産の約7割は電炉によってまかなわれている。一方、インディアナ州北西部は、全米に残る7つの石炭高炉のうち3つを有し、今後も石炭に依存するか、あるいはクリーンな技術に移行するかの岐路に立っている。

日本製鉄は、深刻な大気汚染問題の原因となる高炉を継続して操業することが、許容できる選択肢なのか、改めて考える必要があるだろう。

米インディアナ大学環境レジリエンス研究所(ERI)の調査によると、上記3つの一貫製鉄所が2020年に排出した基準大気汚染物質は、約7500万米ドル(約120億円)の医療費負担をもたらすとともに、呼吸器系の症状による約2万7800日の欠勤、約2万6700日の学校欠席、および230件の救急外来受診を引き起こした。

高炉の操業を続けることは、こうした健康被害に対する責任を今後も負うことを意味する。

同調査は事業性の観点からも、石炭高炉1基当たり約3億5000万米ドル(約560億円)という多額の費用を要するリライニング改修が、競争力回復につながらず、むしろ事業構造の衰退を先送りする可能性を示している。

■雇用創出と排出削減を実現する近代化への移行シナリオ

地元住民が高炉からの大気汚染による健康被害に悩まされ続けたとしても、残念なことに、新たな雇用の機会は十分には見込めない。

同調査は、従来の石炭ベースの生産方法では、2034年までにインディアナ州北西部における直接雇用は9000人から5000人へと減少し、ゲーリー製鉄所については全面閉鎖の恐れがあると指摘する。

一方、「直接還元製鉄(DRI)-電炉ルート」を用いた場合、4万800人(化石燃料を還元剤とする場合)または5万9500人(グリー ン水素の場合)の雇用が見込まれる(図1)。

図1: ゲーリー製鉄所の生産方式とその設備投資額、GHG排出量、雇用数(報告書を参考にスティールウォッチ作成)

費用面では、設備全体を近代化する場合の建設費の基準値(インフラ更新のための30%の予備費を含む)は36億米ドル(約5750億円)、部分的な近代化に要する費用は約15億米ドル(2400億円)と見込まれ、これらの費用は、日本製鉄によって公表されたゲーリー製鉄所への投資額(約31億米ドルを予定、約4952億円に相当)と同水準か、それ以下にとどまると試算される。

■「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」を目指す日本製鉄に求められる対応

日本製鉄が「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」を掲げて海外展開を進めることは、同時にその責任や圧力が拡大することを意味する。その上では気候の観点でも、世界基準に沿った脱炭素化の推進が求められる。

この点で同社は、スティールウォッチの報告書が示す通り、石炭依存からの脱却とクリーンな技術への移行が必要不可欠であり、また意思決定の過程に地域社会を巻き込む必要がある。

競合はすでに動き出している。米ルイジアナ州において、韓国の現代製鉄(Hyundai Steel)は、DRIを採用した一貫製鉄所の建設計画があり、2030年の稼働開始を予定している。こうした動きと比較すると、日本製鉄は、移行の面で出遅れていると言わざるを得ない。

■日本製鉄、グローバル企業としての期待と責任

先月スティールウォッチが発表した鉄鋼企業スコアカードでは、対象となった世界の鉄鋼メーカー18社のうち、日本製鉄は17位との評価になった(図2)。これは主に、同社の石炭依存およびグリーンアイアン拡大の不足による結果だ。

図2: スティールウォッチ鉄鋼企業スコアカードによる企業別総合スコア

ERIの調査は石炭高炉について、産業化が進んだ北米や欧州における「過去の技術」と位置づけ、それらの地域で近年提案されている新設プロジェクトはいずれも、DRIを中核技術としていると述べている。

日本製鉄が世界でその地位を維持、また拡大させるためには、国内外を問わず、石炭高炉の改修ではなく、全面廃止の計画を策定することが必要である。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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