日鉄、問われる説明責任:首都圏CCS事業は「違和感だらけ」と地元住民

記事のポイント


  1. 日本製鉄は株主総会で、株主から首都圏CCS事業に関する厳しい質問を受けた
  2. CCSは、製鉄所などで発生するCO2を分離・回収し、地下に貯留する技術だ
  3. 環境影響評価の欠如や地域への影響について、経営陣は明確な回答を避けた

日本製鉄は6月23日、定時株主総会を開催した。株主からの多岐にわたる質問の中には、首都圏CCS事業に関して、環境影響評価の欠如や地域社会への影響について問うものもあった。首都圏CCS事業は、環境影響評価や地域社会との十分な合意がないまま進められていると、環境NGOは指摘する。しかし総会で経営陣は、その質問に明確に答えることなく、CCSの必要性を述べるにとどまった。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

日本製鉄
日本製鉄は首都圏CCS事業に関して、株主総会でも厳しい質問を受けた
(c) Greg McNevin / SteelWatch

■「首都圏CCS事業」は7月にも試掘が始まる

CCS(二酸化炭素回収・貯留、Carbon Capture and Storage)とは、製鉄所や工場等から発生するCO2を分離・回収し、貯留に適した地域まで輸送したのち、地下に長期間かつ安定的に貯留する技術だ。

首都圏CCS事業は、2024年~25年に国内で選定された先進的なCCS事業9案件のうちの一つだが、他の案件は工業地帯の中や周辺で行われているのに対し、房総半島を内房から外房まで横断する首都圏CCS事業は広い範囲に影響が及ぶ点が特徴だ。

先進的CCS事業として選定された9案件と、その提案企業
(JOGMEC資料より)

東京湾に面した内房にある日本製鉄の君津製鉄所から発生するCO2を、80キロメートルのパイプラインを通して、木更津市、袖ヶ浦市、市原市、長柄町、茂原市、白子町、九十九里町と千葉県の房総半島を横断する形で太平洋側の外房に運び、九十九里沖の海底地下にそのCO2を貯蔵する計画だ。

この大プロジェクトについて、2026年度末までに最終投資決定が行われようとしており、そこへ向けて、4月15日に九十九里浜沖での試掘許可が出され、7月にも試掘が開始される予定だ。

首都圏CCS事業の概要
(出典:令和6年度先進的CCS事業成果報告会 首都圏CCS事業報告資料

■首都圏CCS事業は「違和感だらけ」と地域住民

しかしこれまで、住民や地域に対する説明会について、広くは告知・公開されていないようだ。

株主総会に先立って6月22日に開催された記者会見の中で、国際環境NGOのフレンズ・オブ・ザ・アース・ジャパン(FoE Japan)の吉田明子氏は、パイプライン建設予定地区の住民を対象に昨年7月~12月に開催した説明会は、沿線左右50メートル範囲の地区に回覧板で告知するだけで、ホームページなどで掲載した自治体は限定的だったと指摘する。

また、7月からの試掘に関しても、沿岸の4市町村向けに今年2月~3月に開催したが、質問を「当該自治体の住民だけ」に限定するなどの制約があったという。

2026年4月に「九十九里の海をまもる会」を発足した社会学者の品田知美代表は、同記者会見で、この首都圏CCS事業について「違和感しかない」と話した。

「東京湾の内房から外房まで大量のCO2を運んで埋めようという壮大な計画を誰が考えたのか。プロジェクトに関わる人は、プロジェクトを進めることしか考えていないが、地域住民にも事業者にも、CO2に対する危険意識がない点が大きな違和感だ」(品田代表)

「パイプラインで輸送する都市ガスに毒性はないが、CO2には中毒性がある。実際、千葉県は、CO2の漏洩シミュレーションを義務付けた。排出したCO2を運んで埋めるためだけに、なぜ壮大なリスクを地域に引き受けさせようとするのか。海の中でもCO2が漏れない保証はない。地震が起きて海底に亀裂が生じてCO2が飛び出さないのか。これの一体どこが科学なのか」(同)

実際、米国ミシシッピ州では2020年2月、CO2を輸送するパイプラインが破裂し、無臭のガスが街に流れ出す事故が起きた。300人近い住民が退避し、45人が病院に搬送されたこの事故に関し、現地メディアは、「外で遊んでいた子供たちが気を失い、他の人々は発作を起こした」と報じた。

CCSは世界で技術的な困難に直面している
(資料提供:FoE Japan)

■「CCSは日鉄の石炭依存の事業モデルを固定する」

日本製鉄は、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、2030年までにCO2排出量の30%削減を公約する。鉄鋼産業は世界で最も排出量の多い産業の一つであり、世界のCO2排出量の約10%を占める。これら排出の大部分を占めるのが、主原料の鉄鉱石を鉄に還元する製鉄工程だ。

製鉄過程には、「高温加熱で石炭からコークスを生産」し、「高炉でコークスを燃焼させて銑鉄(せんてつ)を生産」した後、「銑鉄から鋼(はがね)を生産」するという工程がある。

各生産工程による鉄鋼1トン当たりの温室効果ガス排出量
(出典:スティールウォッチリオ・ティント世界鉄鋼協会

日本製鉄の君津製鉄所など、石炭を使用した高炉で製鉄する場合、生産される鉄鋼1トンあたり、約2.3トンのCO2を排出する。

「しかし、この石炭を使う高炉の代替手段としてあるのが『直接還元法(DRI)』と呼ばれる製鉄プロセスだ。すでに米国でも50年間にわたり商業規模で実施されているプロセスだ。現在は、天然ガスを使用して鉄鉱石を鉄に還元し、その後、製鋼過程を電炉にすることで、CO2排出量は1トン当たり約1.4トンまで削減される」と、国際NGOスティールウォッチでアジアを担当するロジャー・スミス氏は、記者会見の中で説明した。

「DRI法で使う天然ガスを水素に置き換え、製鋼にクリーン電力を使用すれば、排出量はほぼゼロに近い水準にまで低減できる。グリーン水素と再エネを利用した最初のプロジェクトが、すでに欧州で建設中だ」(スミス氏)

グリーン水素によるDRI法(製鉄)と再エネを利用した電炉(製鋼)に切り替えれば
鉄鋼生産1トン当たりの排出量は0.05トン未満に抑えられる
(資料提供:スティールウォッチ)

「日本製鉄が追求している戦略の一つは、石炭の一部を水素に置き換えることだが、この手法で削減できる排出量は限られるし、まだ試験段階だ。さらに、それでも削減できないCO2に対してCCSを導入するとしているが、高い回収率を達成することは技術的に困難であり、極めて高額になる可能性が高い」(同)

FoE Japanの吉田氏は、「CCSは、日本製鉄の化石燃料依存を固定してしまう」と指摘する。

「現在、世界中で稼働中の高炉から出るCO2をCCSで回収・貯留しているシステムは存在しない。技術的にも未確立だ。CO2削減効果が限定的なCCS事業は、一刻も早く見直し、省エネ・再エネを中心としたエネルギー政策にシフトすべきだ」とコメントした。

■CCSは「低コスト生産」の利点を揺るがしかねない

日本製鉄は、石炭を使用した高炉で鉄鋼生産をするメリットとして、「低コストで高品質な鉄鋼を生産できること」と説明する。しかしスミス氏は、CCSの導入は、この「低コスト」という利点を根本から揺るがしかねないと指摘する。

首都圏CCS事業は、将来的には年間500万トンの貯留を目指すが、こうした巨大インフラの建設や、超長期にわたって海底にCO2を閉じ込め続けるための維持管理には、膨大な運用コストがかかる。

「たとえこのプロジェクトの初期費用に日本政府から莫大な補助金が投入されても、運用の高コスト化は避けられず、石炭高炉の最大の強みであった『低コスト』とは言えなくなる可能性が高い。さらに、石炭を原料として製造された鉄鋼は、世界のバイヤーから『グリーン』とは認められず、グリーンプレミアム製品として受け入れてもらえないリスクも抱える」とスミス氏は指摘した。

CCS事業に対しては、経済産業省及び資源エネルギー庁傘下の独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源気候(JOGMEC)を通じて、日本政府は、設計や試掘の費用を全面的に補助しており、首都圏CCS事業を含む先進的CCS事業には、2023年度で35億円、2024年度で188億円の国費が投入されている

■「多額の税金を使ってまでCO2を運ぶことなのか」

今回の計画に対しては地域住民だけでなく、首都圏からも反対の声が上がっている。アーティストで歌手・俳優のコムアイさんは記者会見に登壇し、一市民の立場から、プロジェクトへの強い違和感を語った。

「内房の工場から出たCO2という『ごみ』を、新しく作ったパイプラインでわざわざ外房の海に運んで捨てるという大掛かりな計画には、とても違和感がある。CCS事業法(二酸化炭素の貯留事業に関する法律)では環境アセスメントが義務付けられておらず、九十九里でも実施する予定がないというのは大問題だ。本当に海底から漏れ出さないという保証はない」(コムアイさん)

東京に住むコムアイさんは、自身がこの問題に声を上げる理由として、「税金」と「地方へのしわ寄せ」を挙げた。

「企業の出すCO2排出の埋め合わせのために、真の脱炭素とは言えないCCS事業に、多額の税金が使われることに納得がいかない」

「原発や公害問題もそうだが、こうしたリスクのある事業は東京では展開されず、いつも地方が押し付けられている。地元の方々は、声を上げたくても、地域での関係性が近すぎて公に反対できない場合もある。だからこそ、首都圏から声を上げることが重要だ。九十九里の海はみんなのものだ。子どもたちの世代に豊かな地球を残すためにも、日本製鉄には石炭に依存した産業構造を根本から変える方向に舵を切ってほしい」

■株主総会での日鉄・経営陣の回答は
■石炭依存のビジネスモデルからの脱却が不可欠

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北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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キーワード: #脱炭素

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