字幕付き邦画は「1割」、どう増やせるか

前回のコラム「今こそ企業は『字幕付きCM』でCSV創出を!」では、CMに字幕が付くと、全国に約3割いるといわれている聴覚障害者の関心度が1.5倍にアップすることなどから、「字幕付きCM」の必要性について言及しました。今回は、映画の字幕の必要性について考えてみたいと思います。

字幕付き映画が少ない理由

映画に字幕がついているのを観たことがある人は多いと思います。洋画では、字幕版と吹き替え版の2本立てのものが多いと思いますが、日本映画と洋画を合わせて、年間約1200の映画が公開されています。そのなかで、日本映画に字幕を付けて上映する作品は約100作品、10%にも満たない状況です。

あっても、以下のような3つの制約があります。

1.字幕上映場所が限られる(県で数カ所など)
2.字幕上映期間が短い(3日間のみなど)
3.時間が限られる(平日の昼間など)

すべての映画館で字幕付きが見られるわけではなく、日本映画の字幕版上映を定期的に行っている映画館は一部で、上映も公開中の数日間のみ、ひどいときには朝の回のみ、ということもあります。

一方で、字幕付きを一定期間実施することで聞こえない・聞こえづらいお客様の心をつかんでいる映画館もあります。例えば、川崎市にあるチネチッタは以下のような対応をしています。

1.日本語字幕付き映画を期間限定で数本上映している。全ての期間に日本語字幕映画を上映しているものもある。


2.聞こえない・聞こえづらいお客様がスマホのアプリなどで字幕を見る仕組みを利用して、端末の貸し出しを実施している。

また、制作側の判断ですべての回を字幕付きにしたり、要望をうけて字幕付き上映の回が増えたりする場合もあります。

日本映画の字幕付き上映が少ない原因の一つは、お客さまが少ないことだといわれています。聞こえない・聞こえづらい方にすら知られていない、何となくどんなものかわからない、認知度が低い状態では、お客さんも増えません。

※字幕付き上映の詳細については、直接劇場までお問い合わせください。

字幕付き日本映画字幕付きテレビ番組より認知度が低い

映画などの文化芸術作品をバリアフリー化する事業を進めているPalabra株式会社が聞こえない・聞こえにくい人141名を対象に、2021年3~4月に実施したアンケートによると、「テレビに字幕があると知らなかった」と答えた方が1名だったのに対して、「日本映画に字幕があると知らなかった」が7名と、テレビより認知度が低いことがうかがえます。

また、知らなかった方のなかにはAPD(聴覚情報処理障害)の方や手帳を持っていない方も多く、障害団体などに属していないために情報が行き届いていないことも予想されます。聞こえない方向けの字幕つき上映はまだまだ一般社会に浸透していないといえます。

字幕の提供方法についてのWebアンケート(引用元:Palabra株式会社ブログより)
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伊藤 芳浩 (NPO法人インフォメーションギャップバスター)

特定非営利活動法人インフォメーションギャップバスター理事長。コミュニケーション・情報バリアフリー分野のエバンジェリストとして活躍中。聞こえる人と聞こえにくい人・聞こえない人をつなぐ電話リレーサービスの公共インフラ化に尽力。長年にわたる先進的な取り組みを評価され、第6回糸賀一雄記念未来賞を受賞。講演は大学、企業、市民団体など、100件以上の実績あり。著書は『マイノリティ・マーケティング――少数者が社会を変える』(ちくま新書)など。執筆記事一覧

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