企業における人権教育のあり方【企業と社会の関係】

齊藤紀子さん齊藤 紀子(企業と社会フォーラム(JFBS)事務局長)

人権課題への取り組みを企業活動に組み込んでいくことが求められている一方で、企業のCSR担当者はいま、経営層・中間管理職・新入社員など様々な役職員に対してそれをどのように伝え、社内全体に浸透させていけばよいか、悩んでいるのが現状です。

この度、JFBS西日本部会ではグローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク関西分科会との共催により、「企業における人権教育のあり方」について研究会を開催しました。本研究会では、いまの人権問題とは何かを知り、各社員が自らの業務に関連づけて人権課題を理解し、その対応策を中期経営計画の中に落とし込み、少しずつ予防・改善の取り組みを進めていくためのポイントが示されました。

まず始めに、中村雅則氏(黒田電気)より、ラギー・フレームワークにおける企業と人権に関する指導原則やISO26000などの内容を社内で紹介するだけでは具体的実践に結びつかないこと、社員が自分の問題として受け止めるような人権教育ができている企業は極めて少ない、といった点が報告されました。

熊谷謙一氏(国際労働財団/日本ILO協議会)からは、まずは今の人権問題とは何か知ることが重要であると指摘し、部落問題に代表される伝統的な人権問題と、労働(働き方)の権利をめぐる問題、という2つの問題があることを指摘されました。長時間労働や違法な営業行為の強制、外国人に対する劣悪な労働条件、サプライチェーンの中で生じる現地労働者や操業地コミュニティとの軋轢なども、基本的な人権問題であると強調されました。

ラギー・フレームワークについては、人権を侵害して儲けたり見て見ぬふりをして儲けてはならない、ということを定式化したものと理解すればよい、と説明されました。企業内で人権対策を進めるには、現代の人権問題と国際的議論をこのように理解し、サプライチェーンへの対応を行う社内体制を整備し、リスク管理の観点から人権デューディリジェンスを実施し、ステイクホルダーと協働して点検と問題点の把握を行い、人権対策の内容と成果を広く社会に伝えていく、というプロセスによって全社的取り組みとしていくことが重要である、との指摘がなされました。

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齊藤 紀子(企業と社会フォーラム事務局)

原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学人間社会学部准教授。

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