大久保 和孝 (新日本有限責任監査法人CSR推進部長)
CSRの社内浸透のために内部研修を実施する企業は少なくない。他方、「なかなか社内に浸透しない」との悩みが聞こえる。何故、社内浸透が上手くいかないのか。
そもそも、何のために浸透させるのか。知識を共有し、CSRへの意識を促したり、共感を呼ぶことが目的ではないはずだ。組織目的を実現するためであり、研修は手段の一つでしかない。特にCSRがは抽象的で、多くの社員にとって他人ごとになりやすい。
なぜ学ぶのかという理由なしに、知識の共有を求めても効果がない。グローバルコンパクトの宣誓を行っても、業務とのかかわりが見えづらく、社員には他人ごとだ。正しい理解の浸透は難しく、CSRの推進は表面的なスローガンにしかならない。
浸透させる目的を考えたうえで、どうしたら浸透するかを考えることだ。業務との関係が見えないテーマは、自分ごとにはならず、単なる知識の習得や意識付けにしかならない。
得た知識を業務に生かせなければ研修効果も限定的だ。座学からグループディスカッション形式に研修方法を変えても同じだ。研修に参加した満足度は上がるが、抽象的なテーマへの理解は一過性で、業務への反映は限られる。社員が自分ごとと受け止め、業務に反映していくためには、目的実現のためのターゲットを明確にし、体系的に取り組むことだ。
■目的と効果を考えた研修
CSRを現場の社員に浸透させる目的は、知識の共有ではない。一つはCSRをリスク要因と認識し、社会の関心が何処に向かっているのかを知り、不買運動や従業員のストライキなどリスク発生の未然防止に活かすためだ。関連部署が中心となりCSRに関するリスクを高い感度と危機感を持って認識し迅速な対応を図ることだ。
もう一つは、社会の課題解決につながる製品やサービスの開発により企業価値の向上を図るためであり、現場は社会課題を認識して取り組む必要がある。
まず、リスクの認識と対応のためには、従来のリスクマネジメント活動の一環として取り組む方が効果的だ。これまで以上にリスクへの感度を高め、中期的なリスクや認識しにくいリスクを洗い出し、管理部門主導で、経営施策に落とし込み、経営戦略の一環として体系的に取り組む。