「5なぜ」でひも解く、トヨタ式「要因解析」

トヨタ財団は7月13日、トヨタ自動車の問題解決手法をNPO向けに伝える「トヨタNPOカレッジ カイケツ」第4回を開催した。今回は「問題解決」の8ステップの「目標設定」と、問題の真因を探る「要因解析」。17団体の代表が4グループに分かれて、要因解析の手法「5なぜ」などを行いながら、問題の解決方法を探った。(オルタナ副編集長=吉田広子)

「トヨタNPOカレッジ カイケツ」は、トヨタ財団が助成金を拠出するだけでなく、トヨタ自動車の手法を活用し、NPOに問題解決力を身に付けてもらうことを目的に企画した。これにより、各NPOが社会課題解決の担い手として各地域で活躍してもらうことを目指す。2016年度に続き、2期目の開催となる。

講師は、トヨタ自動車業務品質改善部の古谷健夫主査、同社同部第1TQM室の藤原慎太郎主査のほか、元トヨタ自動車の改善QA研究所の杉浦和夫氏、のぞみ経営研究所の中野昭男所長の4人が務めている。

■目標はより具体的に設定

働き方を見直している特定非営利活動法人芦生自然学校の総務部長・青田真樹さん

特定非営利活動法人芦生(あしう)自然学校(京都府南丹市)の総務部長・青田真樹さんは、本来の業務である企画や総務の仕事に時間を割くため、働き方の見直しを進めている。青田さんは、京都・美山を拠点とし、芦生自然学校を含めた5つの組織で働いているという。

現状把握として、どの業務にどのくらい時間をかけているか、労働時間の記録を付けたところ、最も時間を割いていたのが会議や打ち合わせで、その次が移動時間であることが分かった。京都市内にある行政機関との打ち合わせも多く、移動時間だけで全体の2割を占めていた。

青田さんは、「体感的に時間がかかっていることは分かっていたが、ここまで会議や移動に時間をかけていたことに、記録を付けて初めて気付いた」と言う。

現状が把握できたら、次は「目標設定」だ。藤原講師は、「初めから長期的で大きな目標を立てず、まずは3カ月程度先をゴールに見据えて、頑張れば達成できそうな目標を設定するのが良い。問題解決のステップを繰り返していくことで、段々と大きな問題にも対応できるようになる」と助言する。

青田さんは、会議の資料作成と移動時間に焦点を当てた。どのくらい削減するか、パーセンテージや時間など数値で目標を設定する。

■なぜ整理・整頓ができないのか

魚の骨図とも呼ばれる「特性要因図」の一例(2016年度「カイケツ」の実績から)

設定した目標を達成するために行うのが、問題を発生させている要因を探る「要因解析」である。よく使われるのが、「魚の骨図(フィッシュボーン)」と呼ばれる「特性要因図」だ。杉浦講師は、「一度、『特性要因図』を作成すると、問題解決の基礎を学べる」と説明する。

特性要因図は、まず、右端に特性(結果)を記入する。次に、4M (人、機械・設備、方法、材料)で分類しながら、魚の骨のように要因を書き出していく。この時に、「なぜ、なぜ」を5回繰り返しながら、要因を分解するのがポイントだ。

あるNPOは「スタッフがゴミ捨てをしない。事務所が雑然としている」という問題を抱え、「9月までに事務所の掃除レベルを100%にする」という目標を設定した。

中野講師は、「『ムリ・ムラ・ムダ』を無くすトヨタ生産方式の基本は5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)。なかでも、整理、整頓の2Sは基本中の基本で、軽視できない」として、要因解析を行った。

「ゴミ捨てをしない」という特性に対し、場所に関する要因として「捨て場所が分からない」、人に関する要因として「意識が低い」「指示がない」、物の要因として「道具が分からない」、方法の要因として「捨てて良いか分からない」「目的が分からない」――などが挙げられた。

中野講師は、「整理・整頓ができていないということは、要るか、要らないか、判断基準がないということ。掃除をきっかけに、組織の運営が一歩前進するはず」と話した。

「ゴミ捨てがされない」に関して、要因解析を行う中野講師

■防災備蓄食品の配布を効率的に

防災備蓄食品を福祉施設やフードバンクに寄贈したり、リサイクルしたりするなどして、食品ロス(フードロス)を削減しているのは、食品ロス・リボーンセンター(東京・千代田)だ。

都や市町村、民間企業などから防災備蓄食品を受け取り、賞味期限内であれば、福祉施設やフードバンク、生活困窮者、子ども食堂などに寄贈している。賞味期限切れのものは、食品リサイクル事業者が肥料やバイオマスにリサイクルする。

2016年は食品約50トンを寄贈し、約10トンをリサイクルに回した。2017年は約3倍にあたる150トンの処理を目指している。

防災備蓄食品の流れと取引内容を「見える化」したところ、代表理事の山田英夫さんは、「困っている人がいれば何とかしたいと思い、できる限り対応してきたが、物流や管理体制が複雑になっていたことに気付いた。ガイドラインやルールを作成し、効率的な分配を進めたい」と言う。

食品ロス・リボーンセンターの代表理事・山田英夫さん(左)と山田怜奈さん

カイケツには、資金調達の拡大と、関係者との関係を構築し、組織の基盤づくりを行いたいという思いから参加した。同団体の山田怜奈さんは、「行政からの支援はあるものの、ボランティア的な事業にとどまっていたことが分かった。持続的に事業を続けていくために、どのように経費を抑えられるのか、どうやって収益化するかを考えていきたい」と意気込む。

古谷講師は、「ガイドラインの作成は、あくまで対策の一つ。何のためのガイドラインなのか、ガイドラインを作ることで、どのような姿・状態になりたいかを思い描くことが大切だ」と言う。

「要因解析」の次のステップは「対策立案」。古谷講師は「組織内で対策を実行しようとすると、抵抗されることもある。A3にまとめることで、説得力が増し、協力が得やすくなる」と話した。

■活動紹介は「13文字」で

講座終了後には、オプショナル講座が開かれ、オルタナの森摂編集長が「引き算の広報戦略」について話した。「幕の内弁当」のように、いろいろ入っていても、何を伝えたいのか分からない「足し算の広報戦略」に対し、「うな重」のように離れていても一目で分かり、匂いが漂ってくるような広報戦略を「引き算の広報戦略」と呼ぶ。

森編集長は「団体や活動紹介は、できるだけ簡潔にした方が伝わりやすくなる。新聞やヤフーニュースの見出しなどは、13文字以内で言い切っている」と説明する。

13文字にまとめる手順としては、まず、「これを入れておきたい」というキーワードを10ほど選ぶ。そのうち、必須のキーワードを3つほどに絞り込む。これを一つの文章に組み上げ、文字数があふれたら、刈り込んでいく。

森編集長は「理想は13文字、長くても25文字以内にまとめてほしい。常に情報を短くまとめる訓練をすることで、頭の整理もでき、組織内外に伝わりやすくなる」と続けた。

カイケツの第5回は、8月3日に開催される。グループ内で中間発表を行うほか、「対策立案」の計画を立てていく。

<トヨタ自動車の「問題解決」の8ステップ>

1.テーマ選定:
解決すべき対象を決める。問題の重要性、問題が拡大傾向にあるか、問題の影響の大きさなど様々な観点から何を解決すべきか判断する。経営者の重要な役割。

2.現状把握:
現状の姿を客観的かつ定量的に認識すること。事実・データに基づいて伝えることがポイント。

3.目標設定:
何を、いつまでに、どのようにするのかを具体的に決める。マイルストーンを置いて、取り組みの経過を可視化する。この目標を達成すると、選定したテーマを解決できるレベルに設定する。

4.要因解析:
なぜを繰り返して、真因を探る。なぜを繰り返すことで、具体的な実施事項が出てくるので、論理的、合理的な解決策が期待できる。

5.対策立案:
対策内容を整理して、実行計画を立てる。5W1Hを明確にして、最も効果的と思われる対策案から手掛けていく。

6.対策実行:
計画通りにやりきることが大切。

7.効果確認:
対策内容への評価を行う。「対策をほとんど実施し、期待通りの成果が出た」「対策はほとんど実施したが、成果は得られなかった」、「対策はほとんど実施しなかったが、期待通りの成果が得られた」、「対策はほとんど実施せず、成果も得られなかった」の4つのパターンが考えられる。

8.標準化と管理の定着:
効果が出た対策の内容を標準化して、その後の取り組みに反映させていく。こうすることで、同じ問題の再発を防いでいく。

◆第1回「テーマ設定」――「悩み」から「問題の明確化」へ

◆第2回「現状把握」――対策の効果を上げるトヨタ式「現状把握」のコツ

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..