ゼロから学ぶソーシャル・インパクト

(1)ソーシャル・インパクトを生み出すマネジメントは、誰が誰のためにやるのか。
社会的インパクト・マネジメントの主体は事業者、すなわちNPOや企業など事業実施者である。ソーシャルインパクトの見える化・測定は、「コンサルタントなど外の人間が勝手にうまくやってくれるもの」ではなく、「事業者自身が試行錯誤してやっていくもの」なのである。事業者はソーシャルインパクトの「評価をされる」のではなく、ソーシャルインパクトを高めるために「マネジメントするもの」であるという認識の転換が必要となる。事業者がマネジメントのプロセスを“自分ごと化”することが、ソーシャル・インパクトを生み出す上でのはじめの一歩となるのだ。

一方、社会的インパクト・マネジメントは誰のためにやるのか。例えば企業の社会貢献活動であれば、自社の従業員・事業の顧客・取引先・株主・社会貢献活動の受益者・寄付者・ボランティアなど、多様なステークホルダーが関わっている。では、社会的インパクト・マネジメントではどうだろうか。やはり事業に関わる多様なステークホルダーが存在するので、それそれが社会的インパクト・マネジメントを役立てる立場に立つことになる。しかし同時に、最終的には事業の対象者・受益者にとってそれが役立つものでなければならない。社会的インパクト・マネジメントの目的は、事業者の学びや事業の改善、そして説明責任を果たす(アカウンタビリティー)とされているが、そもそもこれらは最終的には事業対象者・受益者を念頭においたものであることを忘れないようにする必要がある。

ここでひとつ気をつけたいこととして、事業対象者・受益者のことを一方的に支援の対象と考えるだけではなく、「ともに課題を解決するパートナー」として捉えることがある。社会的インパクトマネジメントの実践においては、事業対象者の変化や事業の成果をデータとして取ったり、そのデータを通して事業対象者とコミュニケーションを行うだけでなく、できれば事業対象者にも事業の改善や意思決定に参加してもらうなど、様々な形で協働するパートナーとなりうるのである。ガイドラインでは、このことについても述べている。

(2)ソーシャル・インパクトは、いつ、どのタイミングで考えるのか
企業活動を考える際は、よくPDCAサイクルが用いられる。ソーシャル・インパクトを考える場合は、このPDCAサイクル一連の流れをすべてソーシャル・インパクトの視点で考える必要がある。これを「インパクト・マネジメント・サイクル」(下図)と呼ぶ。ガイドラインでは、社会的インパクト・マネジメントで用いられる4つのステージとこれらのステージを支える土台が紹介されている。

第1ステージ:計画 (Plan)
第2ステージ:実行 (Do)
第3ステージ:効果の把握(Assess)
第4ステージ:報告・活用 (Report & Utilize)
すべてのステージを支える要素:組織文化・ガバナンス(Culture & Governance)

インパクト・マネジメント・サイクル(社会的インパクト・マネジメント・ガイドラインより)

事業者の中には、「なんだかとっても大変そう」と思われる方もいるかもしれない。ただ、考えてみれば、これは当たり前の作業をしっかり意識して行うことに他ならない。例えば、計画(Plan)段階は、解決すべき社会課題の構造を把握したり、事業対象者のニーズを的確に把握すること、それらの解決策のセオリーを考えることであり、これらをデータに基づいて考えていく。また、全てのステージを支える要素である「組織文化・ガバナンス」で、絶えず組織の中でより良いものにしていくという姿勢が求められる。「ソーシャルインパクトはすべての事業フェーズで」ということを覚えておくことが肝要である。

(3)ソーシャル・インパクトを高めるために「社会的インパクト・マネジメント」を軸とした事業実施へ
社会的インパクトを最大化していくために、社会的インパクト・マネジメントをしっかりと行い、事業を改善・発展させていくことが重要である。今まで「評価」として外部化されがちだったプロセスを、社会的インパクト・マネジメントとして事業内部に組み込むことで、事業の改善やより良い意思決定や組織学習につながり、大きな社会的インパクトを生みだしていくことができるのだ。

最後に、これまでの話の流れを簡潔にまとめよう。

第1に、事業者は、ソーシャル・インパクトのために「評価される」立場から、適切でより大きなソーシャル・インパクトを生み出すために「マネジメントする」主体へと立場が入れ替わる。

第2に、主体の変更にともなって、事業者は自分たちが直接的に事業に活用できるデータや成果物を生み出しやすくなるといった「実用重視」の側面が強化される。

第3に、事業者は一時的でなく継続的に改善サイクルを回し続けること(インパクト・マネジメント・サイクルを回すこと)によって、事業の改善やより良い意思決定、組織学習を行いやすくなる。

「社会的インパクト・マネジメント」を組織で使いこなして、より大きなソーシャルインパクトを生み出すために、以上のことを念頭におきながら、ガイドラインをはじめとする3点セットを活用していくことができる。

「社会的インパクトマネジメント」は、欧米でも広がっているが、まだまだ発展段階の分野である。わが国でもここに注目して実践でも活用しながら、この概念自体もブラッシュアップしていくことで、国内で生み出すソーシャルインパクトを高めていけたら良いと思う。

<参考資料>
社会的インパクト・マネジメント・ガイドライン
http://www.impactmeasurement.jp/wp/wp-content/uploads/2018/11/impact-management-guideline-ver1.pdf

社会的インパクト志向原則
http://www.impactmeasurement.jp/wp/wp-content/themes/impact/pdf/SIMI_Impact%20Oriented%20Principle.pdf

社会的インパクト・マネジメント・フレームワーク
http://www.impactmeasurement.jp/wp/wp-content/themes/impact/pdf/Social%20Impact%20Management%20Framework_ver1.pdf

◆千葉直紀(ちば・なおき)
CSOネットワーク/インパクト・マネジメント・ラボ担当。中小企業診断士、認定ファンドレイザー。1983年仙台市生まれ。『発展的評価』を用いた評価者育成プログラムの運用や社会的インパクト・マネジメント等を通した社会的事業の改善、マネジメント支援に取り組む。組織診断やファンドレインジングの手法を用いたNPOや中小企業支援などにも携わっている。一般社団法人CAN net理事・事務局長。

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一般財団法人CSOネットワーク
1999年に設立、2011年一般財団法人化。「公正で持続可能な社会に向けた価値ある取り組みを見出し、マルチステークホルダーの参画による社会課題解決を促す」をミッションとし、社会的責任・サステナビリティ推進事業、地域主体の持続可能な社会づくり、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」推進、社会的インパクト・マネジメント事業(インパクト・マネジメント・ラボ)など、幅広い取り組みを行っています。 ウェブサイト:http://www.csonj.org/about/  フェイスブック:https://www.facebook.com/csonj

2018年11月19日(月)12:57

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