ウェブ革命によって、新たな経済原理が誕生する――田坂広志 オルタナティブ文明論 第5回

田坂広志(多摩大学大学院教授、シンクタンク・ソフィアバンク代表、社会起業家フォーラム代表)

 
第4回では、ネット革命とウェブ革命によって、人々が善意や好意など、自らの自発的意志によって行う「ボランタリー経済」が広がっていくことを述べた。

そして、この経済は、これまでの資本主義社会において支配的であった、人々が「貨幣」の獲得を目的として行う経済活動、「マネタリー経済」(貨幣経済)に対して、その影響力を増していくことを述べた。

では、その結果、何が起こるのか。弁証法のもう一つの法則、「対立物の相互浸透の法則」が起こる。

すなわち、対立し、競い合う者同士は、相互に浸透し、融合していく、という法則である。この法則に基づけば、当初、対立する経済原理であった「ボランタリー経済」と「マネタリー経済」は、互いに浸透し、両者が融合した、「新たな経済原理」が生まれてくることが予見できる。

いや、すでに、ウェブ革命の世界では、現実に、その事例が数多く生まれている。

例えば、ウェブ上での書籍販売であるアマゾン・コム。これは、極めて高収益を挙げているビジネスモデルであり、「マネタリー経済」を代表するビジネスであるといえる。

しかし、では、このアマゾンで大きな人気を集めているサービスは、何か。「草の根書評」である。

すなわち、購入したい書籍について、多くの人々の書評を読めるサービスは、ユーザーにとって便利なサービスであり、アマゾンのビジネスの価値を高めている。

しかし、この書評のサービスは、実は、ユーザーが無償で提供しているものであり、「ボランタリー経済」によって生まれてきたものである。

すなわち、アマゾンのビジネスモデルとは、マネタリー経済とボランタリー経済の二つの経済原理が融合した「新たな経済原理」に基づく、ソーシャルシステムとでも呼ぶべきものに他ならない。

同様に、草の根動画サイトのユーチューブや草の根写真サイトのフリッカーなど、UGC(User Generated Contents)と呼ばれる草の根コンテンツによって多くの人々を集め、その場を使って広告宣伝のビジネスモデルを展開するサイトも、やはり、この「新たな経済原理」に基づいたソーシャルシステムといえる。

また、いま、ウェブの世界で急速に広がっている「プロシューマ型開発」。ウェブのコミュニティに「作る側」(プロデューサ)の企業と「使う側」(コンシューマ)のユーザーが集まり、ユーザーの智恵を借りて、企業が新たな商品やサービスを開発する、この新たな開発手法もまた、ユーザーは、ボランタリーに智恵を提供し、その結果、企業のビジネスが生まれてくるという意味で、やはり、「新たな経済原理」である。

さらに、いま、ブログやサイトなどで広がっている「アフィリエイト」。これは、多くの読者が自発的に集まるブログやサイトのオーナーが、自分の好きな商品や評価する商品を紹介し、それを誰かが購入すると、企業からポイントを得るというシステムであるが、これも、やはり、新たな経済原理であるといえよう。

そして、その意味では、「ギャザリング」(集団購入)も、また、新たな経済原理の萌芽であることが分かる。では、こうした「新たな経済原理」の誕生は、ウェブの世界だけの動きか。

そうではない。それは、ウェブの世界に止まらず、いま、すべての企業を巻き込む大きな動きともなっている。

次回、そのことを語ろう。

*本記事は、2008年12月発行のオルタナ11号から転載しています。

Profile
たさか・ひろし 74年、東京大学卒業。81年、同大学院修了。工学博士。87年、米国バテル記念研究所客員研究員。90年、日本総合研究所の設立に参画。取締役を務める。00年、多摩大学大学院教授に就任。同年シンクタンク・ソフィアバンクを設立。代表に就任。
tasaka@sophiabank.co.jp www.sophiabank.co.jp

「ボランタリー経済」と「新たな経済原理」について詳しく知りたい方は、
著者の『未来を予見する「5つの法則」』(光文社)を。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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