「原発は事故が無くても有害」――原発稼働の影響を生物学者が懸念

佐藤教授の2009年の共著書『九電と原発~温排水と海の環境破壊』(南方新社、中野行男・佐藤正典・橋爪健郎/著)

日本の原子力発電所は、すべて海辺にある。閉鎖システムに比べて安価な、海水を冷却に使うシステムを採用しているためだ。

稼働中の原発は、同規模の新型火力発電所の約2倍の熱と、微量の放射性物質を海に捨てている。

その弊害を多くの海洋生物学者が指摘し、学会単位でも政府や電力会社宛てに、複数回にわたって要望書を提出してきた。

ゴカイ類の研究を専門とする鹿児島大学大学院理工学研究科の佐藤正典教授は、原発を「魚貝類の赤ちゃんを殺す装置」と呼ぶ。

佐藤教授に、原発稼働による海洋生態系への影響について聞いた。

「まず、莫大な熱を冷ますために毎秒40~90立方メートルの海水を取水口から吸い込む。そこには小さなプランクトンや魚貝類の卵や幼生も含まれる。ほとんどが、配管への生物の付着を防ぐために投入される次亜塩素酸ソーダと熱ショックで死滅する。

原子炉の熱を受け取り約7℃温まった排水が海に戻され、周辺海域を『温暖化』する。さらに発電所内の掃除や作業服の洗濯に使われた水は、液体の『低レベル放射性廃棄物』として処理・検査後に、温排水と共に海に流されている。『低レベル』とはいえ、複数の放射性核種が確認されている。

例えばトリチウムは、100万キロワットの加圧水型原発から年間30兆ベクレルも放出される。半減期は12年で、水素の同位体なので水分子にもなる。アミノ酸など、あらゆる生体物質にも入り込む。

福島原発事故で海水中に大量に流出しているストロンチウム90と同じく、トリチウムも透過能力が弱いベータ線しか出さない。生体内に取り込まれたら外から検出するのが難しい。

生物は進化の過程で、紫外線や環境放射線に対しては、ある程度の防御システムを獲得してきた。しかし、その上さらに人工的な核分裂による核種の内部被ばくが加わることは生物にとっては想定外であり、その有害性を防ぎきれない」

最後に佐藤教授は「低線量被ばくの影響は、まだよく分かっていない。ヒトの健康被害を未然に防ぐためにも、原発稼働が小さな海の生き物に与えている害に無関心ではいけない」と強調した。(オルタナ編集部=瀬戸内千代)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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