どうする原発ゼロ 政府論点は問題だらけ

政府は今週中にも新たなエネルギー政策を決定するとみられる。主な焦点は2030年時点での原発比率だ。国民世論では大多数が原発ゼロを支持するが、経団連はじめ経済界はこれに強硬に反発。政府が4日に示した原発ゼロ実現に向けた課題でも、従来の原発推進を前提とするかのような見解が並ぶ。

■核燃料サイクルの意義を強調?

政府は原発ゼロの課題の一つとして、使用済み核燃料の処理を挙げる。「関係自治体の理解と協力が得られなければ(原発の)『即時ゼロ』となりうる」として、核燃料サイクルの意義を「高レベル放射性廃棄物の体積が約7分の1に削減」「有害度がもとの天然ウランと同じレベルに達する期間が10万年から300年に短縮」「数千年間ウラン資源を再利用可能」と強調する。

六ケ所村再処理工場 (Wikimedia Commons.)

ところが、その肝心の核燃料サイクルは、青森県六ケ所村の再処理施設や高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)のトラブル続きで、巨費を投じながらも全く見通しが立たない。

NPO環境エネルギー政策研究所(ISEP)は5日、こうした政府の主張に対して「ガラス固化体だけを『高レベル廃棄物』と呼ぶのは詭弁」「(核燃料サイクルを)全く実現できなかった国内外の歴史を見よ」と批判。「国は、これまでの『国のウソ』(原発から核のゴミを持ち出す、再処理は生産工場など)を陳謝」し、各原発などの使用済み核燃料プールがあと数年で満杯になる現実を直視した上で「本音の議論を開始すべき」と提言している。

■自然エネ投資の意義は無視?

原発ゼロの課題として、政府は他にも「電力の3割を喪失し需給がひっ迫」「火力発電の燃料費が年間3.1兆円増加」などと国民生活への影響を指摘。マスメディアもこぞって「原発ゼロで電気料金が倍に」「自然エネルギーへの追加投資に50兆円必要」などと追随した。

FNNも「『原発ゼロ』なら2030年に光熱費2倍」と報じた

ところが、そもそも今夏の猛暑でも最大電力消費量は電力各社の予想を軒並み下回り、「15%の電力不足に陥る」と主張していた関西電力もその過大な予測が明らかに。大飯原発の再稼働は必要性が強く疑われ、「需給ひっ迫」説は根拠を大きく損なった形だ。「燃料費増加」説も、節電効果などをどこまで見込んでいるのかは明らかでない。

ISEPの松原弘直主席研究員は、電気料金上昇への懸念について「政府試算では、30年に向けてはいずれのシナリオでも電気料金が上昇し、原発ゼロシナリオと他のシナリオに大きな差はない。電気料金の上昇をできるだけ避けるには、賢い省エネルギーによる電力消費の抑制が有効だ。さらに電力システム改革により、電気料金の公平性や透明性が確保されれば、電気の中身とコストを考えた消費者による電気の選択が可能になるはず」と説明する。

また、「50兆円の投資が必要」とされる点についても松原氏は「自然エネルギーおよび省エネルギーへの投資は国内の設備投資や雇用を生み出し、まずは短期的な経済効果がある」として、単なる負担ではない点を指摘。「地域主体の事業を行うなど投資のやり方により、地域経済の活性化につながる」として、投資効果が広く地域に波及する可能性があると説く。

民意は示されている。しかし民主党は6日に示した提言で「30年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」として、原発ゼロの実現時期をあいまいにしようとし、政府もこれに沿う形で新たなエネルギー政策を策定する見通しだ。

こうした「腰が引けた」姿勢は、自然エネルギーの普及を遅らせ、核のゴミの国民的解決を先延ばしすることにならないか。(オルタナ編集委員=斉藤円華)2012年9月11日

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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