記事のポイント
- カンヌライオンズの受賞作品にはSDGs関連の作品が目立つ
- テクノロジーを活用して、社会課題の解決に取り組む作品もある
- 3作品を事例として紹介しながら、課題解決の糸口を探る
世界最大規模の広告祭、カンヌライオンズの受賞作品には、今後のSDGsコミュニケーションに活かせるアイデアが数多く存在している。今回は、テクノロジーを活用して、人口過密やDV被害、難民支援に取り組む作品を紹介。受賞作品から課題解決の糸口を探る。(伊藤 恵=サステナビリティ・プランナー)
■マスターカード、ビックデータで都市の「人口過密」を解決へ

マスターカードが立ち上げた「Where To Settle」は、ロシアの侵攻を受けてポーランドへ逃げた1000万人以上のウクライナ難民のためのデジタルツールだ。
隣国のポーランドは最も移民を多く受け入れているが、避難先が一部の大都市に集中し過密状態になるという問題が発生していた。
そこで、マスターカードは、給与情報や不動産情報、求人サイトなどのデータに基づいて、ポーランド国内のさまざまな地域の居住地情報をまとめたプラットフォームを構築。ここには、マスターカードが蓄積している大量の支出に関する情報が活用された。
「Where To Settle」にアクセスして、希望する仕事や家族の人数などを入力すると、ユーザーに適した居住地情報が提案される仕組みになっている。
さまざまなビックデータを活用して、大都市の「人口過密」という社会課題にアプローチした施策だ。この作品はSDGs部門でグランプリを受賞している。
■「DV被害」、声を出さずに通報

近年、韓国では家庭内暴力が急増していたが、通報されるのはそのうちのわずか2%だという。
被害者と加害者が同じ空間にいることが多く、通報しにくい状況であることが原因だ。この課題に対するソリューションが「Knock Knock」。
これは声を出さないで通報する新しいシステム。具体的にはダイヤルした後、任意の番号を2回タップすると、リンクが送信される。
リンクをタップすると通報者のカメラを通して監視することができたり、位置を追跡することができたりする仕組みだ。
この通報方法は、美容チャンネルやネイルサロンなど女性が多いタッチポイントでPRされ、開始してからすでに5749件のリンクが送信されたという。
さらに、耳が不自由な人でも利用できる通報システムとして正式に採用されるなど、広がりをみせる。この作品は性差別や偏見を打ち破るクリエイティブを讃えるグラス部門でグランプリなどを受賞した。
■難民が受けた残虐行為をAIで「見える化」

最後は、難民の人権問題を解決するために画像生成AIを活用した事例だ。オーストラリアでは長年、難民の非人道的な収容が問題になっていた。
しかし収容所という閉鎖的な空間では、残虐行為を立証することが難しく、当事者の証言しかないことが課題だった。
法律事務所Maurice Blackburnは300時間にも及ぶインタビューを実施。難民たちの証言をもとにAIで画像生成をおこなった。証言だけでなく、目の前にリアルな情景を提示することで、社会に強いインパクトをもって問題提起することに成功した。
一方で、実際の写真ではないものをAIが生成して提示することに対しては批判的な意見もあり、生成AIの活用については今後も議論が必要だ。
日本でも収容施設での問題が相次いで発覚し、難民などの人権問題は大きな課題になっている。
先に挙げた「Knock Knock」でアプローチしたDVの問題でも、日本は同様にコロナ禍を経て深刻化している。このような海外の事例を、日本での社会課題解決のヒントにもできるのではないだろうか。