記事のポイント
- サステナ報告基準を定めるGRIとISSBがシンガポールに共同ラボを設立した
- 共同ラボは人材開発やソリューション提供で企業のESG情報開示を支援する
- シンガポール副首相は「アジアからベストプラクティスを生み出したい」
企業のESGに関する情報開示を巡っては、各国で法制度化が進んでいる。そうした中、企業のサステナビリティ報告基準を定めるGRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)とISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は11月20日、共同でシンガポールに「サステナビリティ・イノベーション・ラボ(SIL)」を開設した。専門人材の開発や実践的なサプライチェーン・ソリューションの提供を通じて、企業の開示対応を支援するのが狙いだ。将来的には日本にもSILの拠点を設ける計画だ。(オルタナ編集部・北村佳代子)
SILは、GRIやISSBの報告基準に則って、サステナビリティ報告を進める企業を支援する。グローバルならびに各国現地の官民パートナーとの協力の下、サステナ開示のトピックを特定し、そのコンセプトやベストプラクティス、データを軸にしたソリューションを開発していく。
官民を問わず、企業や組織は、サステナ開示での説明責任と透明性の向上が求められている。特に、バリューチェーン全体(スコープ3)の情報開示も必要とされる中で、適切なツールと能力を備えた人材の育成が急務になっている。
そこでSILは、スコープ3の情報開示に対応できるよう、サプライチェーンに属するさまざまな組織のスキル向上(キャパシティ・ビルディング)も手がけていく。
SILは優先分野として「相互運用とデジタル・タクソノミー(デジタル分類体系)」、「説明責任(アカウンタビリティ)と監査」、「中小企業」、「公共セクター」の4つの領域の作業部会を設置して、重点的に共同研究を進めていく方針だ。
「アジアの社会・経済的成長と、グローバルでの脱炭素化に向けた取り組みは、ゼロサム競争とみなすべきではない。アジアからベストプラクティス(最良の事例)を生み出していく」――。
シンガポールのヘン・スイキャット副首相は11月20日、SILの開設セレモニーに登壇し、GRIとISSBの母体・国際財務報告基準財団(IFRS)が志を同じくし、世界初のパートナーシップを構築したことを称賛。そしてアジアがサステナビリティ経営やサステナ情報の開示を先導していくとの意気込みを語った。
■GRIとISSBがパートナーシップを組む意義
オルタナが11月3日に報じたとおり、GRIのエルコ・ファン・デル・エンデン最高経営責任者(CEO)は、セレモニーの中でも「GRIとISSBは相互補完的な関係にあり、どちらか一つだけを選択するよう迫られるような関係にはない」と強調した。
GRIの定めるサステナ報告基準「GRIスタンダード」は世界で最も広く利用されており、利用企業数は1万1000社を超える。日本でも時価総額トップ50に入る企業のサステナ報告の8割がGRIを利用する。欧州・北米よりアジアの方が平均してGRI利用率は高く、シンガポールでは98%にのぼる。
一方、IFRS財団傘下のISSBの基準は、世界各国で法制度化されるサステナ情報開示の基準になっている。ISSBは2023年6月、一般的なサステナビリティ報告基準(S1)と気候変動報告基準(S2)を公表した。
日本でもISSBの「S1」「S2」基準を参考に、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が日本版の「S1」「S2」基準の策定を進めている。2024年度中に確定基準が公表された後、有価証券報告書でのサステナ情報開示が義務付けられる。
ISSBのエマニュエル・ファベール議長は、「第一にISSB基準とGRI基準の両方を使用する企業にとってわかりやすくすること。そして第二に、開示関連のイノベーションと知見の構築を支援すること。SILは、GRIとISSBの協力の下、その手段を提供していく」と、SIL開設の意義を強調している。
また、GRIのエルコ・ファン・デル・エンデンCEOは、「サステナビリティ報告に対する要求と、さまざまな組織の持つサステナ開示に関する能力や専門知識との間のギャップを埋めるために、SILを役立ててほしい」とコメントした。
■GRIとISSBの協働の軌跡
■GRIとSILは2024年にも日本に事務所を開設