記事のポイント
- 生物多様性の保全に取り組む企業に対して、政府が証明書を発行する
- ESG要素を重視する金融機関からの評価を受けやすくすることが狙いだ
- 次期通常国会で法案を成立し、2025年度に施行予定だ
生物多様性の保全に取り組む企業に対して、政府が証明書を発行する。財務だけでなくESG(環境・社会・ガバナンス)要素を重視する投資家や金融機関からの評価を受けやすくすることが狙いだ。2024年6月までの通常国会で法案を成立させ、2025年度に施行予定だ。(オルタナS編集長=池田 真隆)
投融資の判断に、ESGなどの非財務領域を考慮するESG投資の一環として、生物多様性は注目を集める。この背景には、「ネイチャーポジティブ」という考え方がある。
これは、2030年までに、生物多様性の減少を止めて、回復軌道に乗せることを目指した国際目標だ。2022年12月にカナダ・モントリオールで開催した生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択した、「昆明―モントリオール生物多様性枠組」の中にこの国際目標を組み入れた。
2023年9月には、投資家向けの情報開示枠組みTNFDが発行され、生物多様性など自然資本の保護を企業に求める「投資家イニシアティブ」も立ち上がった。
その一つが、「ネイチャー・アクション100」だ。このイニシアティブに参加した投資家は、企業に生態系の保護を通して財務リスクの軽減を訴える。
■年内に「移行戦略」策定へ
日本は、NX(ネイチャー・ベースド・トランスフォーメーション)を掲げた。生態系や自然が減ることによる財務リスクを特定し、自然資本の回復に取り組む経営への変革を促す。
NXへの移行戦略を、年内にまとめる予定だ。移行戦略の施策の一つが、政府による証明書の発行だ。生物多様性の保護に取り組む企業に対して、お墨付きを与える。
証書を持っていることで、金融市場からの評価を受けやすくする。ファイナンスをインセンティブに、企業の変革を後押しする狙いだ。
■自民・井上信治氏、「証明書の発行は25年度から」
岸田文雄首相にNX政策に関する政策提言を提出したのは、自民党の環境・温暖化対策調査会(井上信治調査会長)だ。
井上信治・衆議院議員はオルタナ編集部の取材に対して、「企業の自然資本への貢献を政府が証明する法的な枠組みをつくる。その証明書を持つ企業が金融機関から評価されやすい流れをつくりたい」と話した。6月の通常国会までに法制化について議論する。2025年度の施行を目指す。
証明書は、環境省が管理する「自然共生サイト」に認定した企業向けに発行する。環境省は10月、企業が管理・所有する森など122区域を生態系保全エリアとして、自然共生サイトに認定した。
認定したのは、トヨタ自動車の「トヨタの森」(愛知県豊田市)やパナソニックの草津工場「共存の森」、東京建物の「大手町タワー」などだ。今後は毎年2回、認定区域を公表する。2026年度までに500以上の区域に認定を出すことが目標だ。
環境省が自然共生サイトに認定した区域は、「OECM(Other effective area-based conservation measures)」として国際データベースに登録される。OECMとは、国立公園などの保護地区ではない地域のうち、生物多様性を効果的に保全している地域を指す。
この取り組みを法制化し、認定した企業と認定区域を寄付などで支援した企業向けに政府が証明書を発行する。
井上氏は、「企業担当者にヒアリングしても、まだ生物多様性の認知度が低い。欧州や米国は生物多様性を経営リスクと捉え、危機感を持つ。市場から評価されるようにして、機運を高めたい」と話した。
■世界から遅れるNX戦略
だが、ネイチャーポジティブを目指す上で、金融市場を変えるだけでは本質的ではない。
生物多様性に詳しいレスポンスアビリティ(京都市)の足立直樹代表は、「世界の金融市場はすでにネイチャーポジティブの意義を理解しており、先行している」と指摘した。
「ネイチャーポジティブの実現には、一次産業の再興、持続可能な農業の拡大、土地開発の制限などが必要だ」と訴えた。