環境の大量破壊「エコサイド」が国際法で裁かれる日――下田屋毅の欧州CSR最前線(24)

■企業トップや、融資した銀行が裁かれる

「エコサイド」とは、その名のとおり環境に関わる犯罪を表すものである。「ジェノサイド」が、人の大量虐殺行為を表すように、「エコサイド」は、環境の大量破壊行為を表す。

ヒギンズ氏は、「エコサイドとは、ある地域において、人為的、または、その他の要因により、その地域の住民の平穏な生活が甚だしく損なわれるほどに、生態系が広範囲にわたり、破壊、損傷、損失を被ること」と定義する。

「エコサイド」はただ単に環境を破壊することのみを意味するのではなく、環境破壊が地域住民や将来世代の人々に影響を及ぼす「人権」に関わる問題と捉えられている。

「エコサイド」を定めた新法が成立すると、企業が、故意であろうとなかろうと環境の大量破壊行為をした場合に、企業のトップなどがこの罪を犯した責任を国際刑事裁判所で裁かれることとなるというのだ。

エコサイド法で裁かれる刑事責任のある人々は以下となる。

①企業活動においてエコサイドを生じさせた企業のトップ
②エコサイドを生じさせる事業を優先させる政策を許可した国家・州の元首
③エコサイドを生じさせる事業に資金供給を許可した銀行のトップ

■すでに発生している「エコサイド」

生態系の大規模破壊であるエコサイドは、企業が関与した事例として現在も発生している。それらの具体例として次の3つが挙げられる。

①熱帯雨林の森林伐採と同様、大規模な土地利用による生息地の直接破壊を引き起こす (例:アマゾン熱帯雨林の森林伐採)

②原油の投棄や流出などの、故意か事故かに関わらず重大な汚染  (例:BPによるメキシコ湾沖の原油流出事故による大規模自然破壊、シェル社によるナイジェリア・ニジェール・デルタ地帯での約50年に渡る原油流出によって引き起こされた大規模自然環境汚染)

③ タール/オイルサンド、石炭、金鉱山の採掘のような、全体の地形が取り除かれるようなもの (例:カナダ・アサバスカ採掘地帯タールサンドの抽出)

ガーディアン誌によると「国連の調査では、世界のトップ企業3,000社が引き起こしてきた環境被害の総額は米2.2兆ドルにのぼる」という。

タイム誌によると「国連の調査では、世界にある3,000の公営企業から、環境破壊や汚染について補償を求めた場合、それぞれの企業の利益は1/3にまで減少するという試算がある」。

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下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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