記事のポイント
- アジア・ゼロエミッション共同体初の首脳サミットが東京で開かれた
- しかし、その中身は化石燃料の延命でしかないと批判の声が上がる
- フィリピンの環境NGOは、JBICなどが出資するLNG計画を問題視する
日本が主導するアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)初の首脳サミットが12月18日、東京で開かれた。同共同体は、火力発電の水素・アンモニア混焼、二酸化炭素回収・貯留(CCS)などを柱に掲げることから、化石燃料の延命につながると批判を集めている。サミットに合わせて来日したフィリピンの環境NGOは、国際協力銀行(JBIC)などが出資する液化天然ガス(LNG)プロジェクトの海洋汚染や違法性を指摘した。(オルタナ副編集長・長濱慎)
■「海のアマゾン」と呼ばれる海域にLNGターミナル
アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)は、岸田文雄首相が2022年1月の施政方針演説で打ち出した、アジア地域の脱炭素化を目指す枠組みだ。日本、ASEAN諸国、オーストラリアが参加している。
その初となる首脳会議が、12月16日〜18日の日本・ASEAN友好協力50周年特別首脳会議の最終日に開かれた。共同声明は再エネの拡大とともに、原子力、火力発電所の水素・アンモニア混焼、CCS、LNGの活用をうたっている。
しかし、環境NGOや市民からは、化石燃料に依存するためパリ協定1.5度目標に整合しないと批判の声があがる。サミットに合わせて来日したフィリピンの環境NGO「シード(CEED)」のアンジェリカ・ダカナイ氏は、化石燃料に依存するプロジェクトの一例として、イリハンLNG輸入ターミナルを上げる。
同プロジェクトはフィリピン・ルソン島に建設された火力発電用のLNG受入・貯蔵基地で、すでに稼働が始まっている。JBICや大阪ガスなどが出資する現地企業アトランティック・ガルフ・アンド・パシフィック(AG&P)社が、建設を主導した。
アンジェリカ氏は、こう懸念する。
「ターミナルが面するヴェルデ島海峡は、海洋生物多様性の世界的中心地で『海のアマゾン』とも呼ばれている。しかし、土砂や油流出、廃液や汚水により、300種以上のサンゴや1700種以上の魚類の生息が脅かされている。漁業で生計を立てる住民の暮らしへの影響や、呼吸器疾患などの健康被害も深刻だ」
アンジェリカ氏は、JBICがプロジェクトを環境レビューが不要の「カテゴリーC」に分類したことも問題視している。ルソン島の漁民はJBICへ異議申し立てを行い、カテゴリー分類を見直して環境レビューを行うこと、AG&Pまたは事業への出資持分を引き上げることなどを求めた。
JBICは申し立てを受理し、予備調査に入った。カテゴリーCに分類した理由については、オルタナ編集部の取材に対してこう回答した。
「AG&P社への出資は、特定プロジェクトと関連のない株式取得。JBICは出資の意思決定に先立ち、環境スクリーニング用フォームやその後のやり取りにより、AG&P社の環境社会配慮実施態勢を確認するなどして、JBIC環境ガイドラインに従ってカテゴリCに分類している」(経営企画部報道課)
フィリピン政府も、AG&P社が正当な手続きを経ずに農業用地を事業用地に転換したなどの理由で工事中止命令を出した。しかしそれを無視して工事が進められたという。
■天然ガスや石炭の延命は世界的な脱炭素に逆行
アンジェリカ氏は「世界で開発中の新規天然ガス火力発電の65%以上がアジア地域にあり、その大半をフィリピンとベトナムが占める」と、指摘する。
天然ガスは化石燃料ながら、石炭や石油と比べて燃焼時のCO2排出量が少ないことから「クリーンエネルギー」とも呼ばれる。これを輸送・貯蔵しやすく液化したLNGは、日本の主導で開発・普及させてきた歴史がある。AZECの首脳共同声明も、天然ガスを「パリ協定の気候目標を整合するトランジション燃料」と位置付けている。
しかし、世界で脱炭素といえば「脱化石燃料」を意味する。12月13日に閉幕した国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の成果文書は「廃止」でなく「脱却・移行」と表現を弱めたものの、化石燃料に依存しないという方向性を示した。天然ガスをこれから新規開発する余地がないことは、明白だ。
天然ガス以外のAZECの施策も、世界的な潮流に反する。一例として、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書は、火力発電所の排出削減対策について「化石燃料の生産や使用におけるライフサイクルで90%以上の温室効果ガスを削減したもの」と定義する。
しかし、日本が進める石炭火力発電所への20%アンモニア混焼では、この基準を満たせない。さらに、COP28では米国が石炭火力の廃絶を目指す脱石炭連盟(PPCA)への参加を表明した。これにより、主要7カ国(G7)で同連盟に入っていないのは日本のみとなった。