ネスレ、コーヒー生産が半減する2050年問題と再生農業(後編)

記事のポイント


  1. ネスレは、2030年までに再生農業への移行に約2400億円を投じる
  2. 脱炭素化や生物多様性の保全、農家の生計向上などの一環だ
  3. 2030年までにコーヒーの50%を再生農業から調達することを目指す

ベトナムルポ: コーヒー生産が半減する2050年問題と再生農業(後編)

世界的にコーヒー需要が高まる一方、気候変動の影響でコーヒー栽培に適した土地が2050年までに半減すると予想されている。そうした危機に対応するため、コーヒーブランド「ネスカフェ」などを展開するネスレは、コーヒー農家のリジェネラティブ(再生)農業への移行を後押しする。生物多様性保全や脱炭素、小規模農家の生計向上にも貢献したい考えだ。再生農業を実践するベトナムのコーヒー農園を取材した。(オルタナ副編集長=吉田広子)

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農家にとってコーヒー豆栽培は最善なのか

ネスレ・ベトナムの農業サービスマネージャーのファム・フー・ゴック氏(左)

ネスレは「ネスカフェ プラン2030」の一環で、サプライチェーンの再生農業への移行を加速するため、2030年までに12億スイスフラン(約2400億円)を投じる。2025年までにコーヒーの20%を再生農業から調達し、2030年までに50%達成を目指す。

同社は農家に対し、環境配慮型の農業技術や研修を提供するほか、再生農業で栽培された作物に割増金を支払う。

しかし、農家にとって、コーヒー豆栽培が最善の選択肢なのだろうか。

ネスレ・ベトナムの農業サービスマネージャーであるファム・フー・ゴック氏は、「コーヒー豆のなかでもロブスタ種は丈夫で育てやすく、低木なので女性でも収穫しやすい。価格も安定している。ドリアンやコショウ、ベテルナッツ(ビンロウ樹の実)は人気があり、価格は上昇しているものの、価格は不安定で、栽培管理も大変だ」と説明する。

多様な植物を育てることで、土壌が回復し、単作(モノカルチャー)よりも農薬や化学肥料を大幅に削減できるという。その分コストも削減できる。それが農家にとって、長期的な安定収入につながるという考えだ。

健全な土壌が健全なビジネスを支える

ネスレ・シニア・バイス・プレジデント飲料ストラテジックビジネスユニット責任者の フィリップ・ナヴラティル氏
ネスレ・シニア・バイス・プレジデント飲料ストラテジックビジネスユニット責任者の フィリップ・ナヴラティル氏

再生農業への移行はネスレのビジネスにどのような意味があるのか。ネスレ・シニア・バイス・プレジデント飲料ストラテジックビジネスユニット責任者のフィリップ・ナヴラティル氏は、オルタナの取材に対し、こう答える。

「世界最大のコーヒーバイヤーである私たちは、『正しいもの』をつくる責任がある。コーヒー栽培のために、これ以上、土地を開拓しなくて済むように、効率的な栽培を行う必要がある。健全な土壌を保つことで、健全な利益を得られる。再生農業への移行は、CSV(共通価値の創造)であり、ネスレの競争優位性に資するものだ」

CSVとは、ネスレが2005年ころから使い始めた概念で、企業が社会課題の解決に取り組むことで企業価値を創造するという考え方だ。

特にベトナムのコーヒー産業は、1ヘクタール程度の小規模農家がほとんどだ。その多くが、貧困層に属する。近年は、気候変動の影響で、異常気象や干ばつに苦しむ農家が多い。

ペットボトルの活用で水使用量を削減

地面にペットボトルを差し込んで土壌の水分量を測る。
簡易的な設備で、農家の間で普及している

干ばつや過度な灌漑による水不足を受けて、ネスレは農家に対し、効率的な灌漑システムの提供や水使用量のモニタリングに関する技術指導などを行ってきた。それまで、多くのコーヒー農家が必要以上に水を使い過ぎていたが、ペットボトルを使って土壌の水分量を図り、適切なタイミングで適切な量の灌漑を行えるようになった。

その結果、灌漑用水を40 ―50%削減できたという。地下水をくみ上げているため、もともと水道費は発生しないが、ポンプを動かす燃料費の削減につながった。ポンプの動力に太陽光発電を導入する農家もいる。

ネスレ・ベトナムは生産管理のアプリを農家に提供。葉に異常があれば、
アプリで類似写真を探し、対処方法を調べられる

再生農業が脱炭素化を進める

熟し始めたコーヒーの実

再生農業への移行は、ネスレの脱炭素化を支える取り組みでもある。土壌が健康であれば、より多くの炭素を吸収するからだ。同社のGHG排出量の約3分の2は、農業に由来するものだという。

ネスレはグローバルで2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量を半減、2050年までにネットゼロを目指す。

ネスレのような巨大な食品会社が、再生農業を実践できるのか。

「『バラ色の絵』はないが、いま移行期にいるということを消費者に示していきたい。ネスレは世界180カ国以上で製品を販売し、20カ国以上から原材料を調達している。巨大な規模を持っているということは、私たちが正しいことをすれば、その分だけ社会に良い影響を与えられるということだ。私たちは『正しい足跡』を残していると信じている」。フィリップ氏は力強く語った。

※この記事は、ネスレ(本社スイス)主催のプレスツアーに参加し、取材した内容をまとめたものです。同社から渡航費および現地の宿泊費の提供を受けたものの、取材や記事制作の過程において同社から依頼や制約を受けていないため、PR記事ではなく、通常記事として配信しました。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #生物多様性

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