ボルネオの現実、写真で映し出すーー写真家・柏倉陽介

サステナX

ネイチャーフォトグラファーとして活躍する柏倉陽介さんは、15年以上にわたり、ボルネオの自然や野生生物を撮り続けてきた。パーム油の原料となるアブラヤシのプランテーション開発が進み、野生動物が棲み処を奪われている現実を写し出す。柏倉さんに、その思いを聞いた。

柏倉陽介( かしわくら ようすけ)
ネイチャーフォトグラファー。神奈川と北海道礼文島を拠点に、自然分野を撮影。米国立スミソニアン自然史博物館、ロンドン自然史博物館、国連気候変動枠組条約締約国会議などで環境をテーマとした作品を展示。ナショナルジオグラフィック国際フォトコンテストなど主要な国際写真賞に入賞し、国際モノクローム写真賞では審査員を務める。

■棲み処を失った野生生物の現実

――柏倉さんがボルネオの環境問題を知ったきっかけについて教えてください。

危機に瀕するボルネオのゾウ

15年以上前、サラヤが企画したスタディーツアーで初めてボルネオ島を訪れました。はじめは、ただただ野生動物との出会いに心を躍らせていました。

キナバタンガン川をクルーズしながら撮影していると、ボルネオゾウやオランウータン、テングザルなど、たくさんの野生動物が次々に現れました。「すごい、すごい」と興奮しながら、夢中でシャッターを切りました。

ところが、同行していた環境保全団体ボルネオ保全トラスト・ジャパンの方から、「なぜ、こんなにたくさんの動物が現れるか分かりますか」と聞かれ、答えることができませんでした。

周りの森をよく見ると、空や向こう側が透けて見えるほど、木々がまばらでした。

その方から、アブラヤシのプランテーション開発が川岸まで迫っていることを教えてもらい、質問の意味を理解しました。動物たちは、開発によって棲み処を奪われ、わずかに残された河岸の森に追いやられたのです。

ボルネオの野生生物が置かれた状況を知り、写真に対する意識が変わりました。それまでは、大自然を舞台にしたエクストリームレースや山の風景など、「かっこ良い」「きれい」な写真を撮っていましたが、この現実を伝えなければと思ったのです。

わずかに残った熱帯雨林。プランテーション開発が川岸まで迫っている

■人間の開発力、自然災害に匹敵

――パーム油の原料となるアブラヤシのプランテーションですね。パーム油は、約8割が食品、約2割が日用品などに使われていますが、その需要は増え続けています。広大なプランテーションを前に、どのような思いが巡りましたか。

どこまでも続くプランテーション

高台から見た光景は、衝撃的でした。地平線の彼方まで、アブラヤシのプランテーションが延々と広がっていたのです。日本の田んぼの風景とは比べ物にならないほどの規模で、かつて豊かな熱帯雨林が広がっていた場所が、見渡す限りプランテーションに変わってしまった。

鳥肌が立つような、言いようのない恐怖を感じました。火山の噴火や津波など、自然災害は恐ろしいものです。しかし、人間の開発力はそれらに匹敵するほどのインパクトを自然に与えます。

しかも、自然災害はいつか収束しますが、人間の開発は終わりなく続いていく。その事実に、言いようのない恐怖と不安を覚えました。

高台に上る前、プランテーションの間の道を車で走っていたのですが、2時間ほど走っても、景色が全く変わらないことに違和感を覚えていました。

もし、あの時、それがプランテーションだと知らずにいたら、「アブラヤシの木がどこまでも続いていて、素敵な景色ですね」と、言っていたかもしれません。

――写真集『Back to theWild 森を失ったオランウータン』からは、ボルネオの動物たちが懸命に生きている様子が伝わってきました。より多くの人にボルネオの現実を知ってもらうためには、動物の美しい姿で共感を得るのか、悲劇的な写真で危機感を持ってもらうのが良いのか、葛藤があるのではないかと推察します。柏倉さんは、どのようなことを意識して撮影しているのでしょうか。

『Back to the Wild 森を失ったオランウータン』(エイアンドエフ、本体価格1800円+税)。著者の印税と、本の売上金の一部がオランウータンの保護施設に寄付される

それは本当に難しい問題ですね。写真集にも、ケガをしたゾウの写真を掲載していますが、痛々しい姿を見たくないという人もいると思います。

私自身は、バランスが大切だと考えています。写真集の表紙は、タオルを被ったオランウータンの孤児です。ほとんどの人が「可愛い」と感じる写真ですが、よく見ると背景に檻(おり)の影が写り込んでいます。

その子は、頭からつま先までタオルにくるまり、じっと壁を見つめていました。母親を失った悲しみが伝わってくるようでした。

人間が地球で生きていくためには、自然や他の動物たちが生きる余地を残さなければなりません。自然は、無限ではなく有限です。

可愛らしい写真でありながら、どこか考えさせられる要素も含まれている。そうした写真で、訴えかけたいと思っています。

いつか、「ボルネオの野生生物が置かれた状況全体」を一枚で表現できる写真を撮影できたら良いですね。

人間の手を借りて、綱渡りの練習 をするオランウータンの孤児
人間の手を借りて、綱渡りの練習 をするオランウータンの孤児

■ボルネオの問題、身近にとらえる

――サラヤは2004年に「ボルネオ環境保全活動」を開始し、環境保全と原料調達の両面から、ボルネオの問題に向き合っています。どのようなところに共感していますか。

RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証の利用や、ボルネオの環境保全につながる寄付の仕組みなど、さまざまな取り組みをされています。

私が特に素晴らしいと思うのは、社員一人ひとりの意識の高さです。こんなことをしたいと相談すると、皆さんはいつも真剣に耳を傾けてくれます。例えば、オランウータンの保護施設に写真集を寄贈したいと相談したところ、実現に向けて協力してくれたことがありました。

日本でも、SDGs(持続可能な開発目標)が浸透してきましたが、まだ表面的な理解にとどまっているように感じます。

ボルネオの環境問題は、遠い国の話ではありません。私たちの日常生活が、ボルネオの環境問題につながっています。サラヤは、そうしたメッセージを積極的に発信しています。

私は、自分の生活や身の回りの環境を大切にする気持ちが、地球の裏側の環境問題にも目を向けるきっかけになると考えています。

写真を通して、ボルネオの自然環境や野生動物の状況を発信することで、少しでも貢献できればと思います。

(PR)サラヤ

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #生物多様性

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