サラヤ、ボルネオの問題を消費者と共に解決へ

「生物多様性の宝庫」として知られるボルネオ島。だが、パーム油増産のため、原料であるアブラヤシのプランテーション開発が進み、生物多様性の危機に瀕している。「ヤシノミ洗剤」などを展開するサラヤ(大阪市)は20 年前、ボルネオの環境保全プロジェクトを立ち上げた。根底にあるのは、「ボルネオの問題を広く世界に知ってもらい、消費者と共に解決したい」という思いだ。

川をはさんで左側が残された熱帯雨林。右側は一面アブラヤシのプランテーションが広がる
川をはさんで左側が残された熱帯雨林。右側は一面アブラヤシのプランテーションが広がる

ボルネオ島を流れるキナバタンガン川では、ボートで流域を移動しているとテングザルやボルネオゾウなど多くの動物を目にすることができる。  

観光客にとっては野生動物をまじかに見る貴重な体験だが、背景には、アブラヤシのプランテーション開発により、川岸の限られた森に追いやられているという現実がある。 

しかし、その限られた森ですら、違法な伐採でプランテーションになっている場所もあるのだ。サラヤは、川流域の開墾地を買い戻して森に再生し、分断された熱帯雨林をつなぐことで、野生動物の生息地を守る「緑の回廊」計画を進める。

廣岡竜也・サラヤ広報宣伝統括部統括部長は「ボルネオの生物多様性を絶対に守らなければいけない。まだ『緑の回廊』実現までの道のりは遠いが、近年はパーム油を取り巻く環境も、日本の消費者の意識も、着実に変わっている」と手応えを語る。

■パーム油生産で熱帯林は3分の1に 

アブラヤシの畑と収穫された実
アブラヤシの畑と収穫された実

ボルネオは、マレーシアとインドネシア、ブルネイの3つの国に属する世界で3番目に大きい島だ。 

「生物多様性の宝庫」として知られるが、この50年ほどで、その姿は一変した。1960年代から木材調達のために大規模な伐採が行われ、80年代に入ると、パーム油生産のためにアブラヤシのプランテーション開発が進んだ。

その結果、ボルネオの熱帯林は2015年には約3分の1にまで減少。棲む場所を失ったボルネオゾウやオランウータンなど、多くの野生動物が絶滅の危機に瀕している。 

その原因となるパーム油は、世界で最も生産されている植物油だ。大豆油やなたね油よりも生産効率が高く、単位面積当たり8―10倍の生産が可能だ。世界で利用されるパーム油の85%は「食用」で、チョコレートやスナック菓子などさまざまな食品に使用されている。残りの15%は「非食用」で、化粧品やプラスチック加工、石けんや洗剤に使われる。 

サラヤは20年前、あるテレビ番組の取材がきっかけで、パーム油の生産がボルネオの森林破壊につながっていることを知った。世界的にも、ましてや日本の大手メーカーに比べても、サラヤの使用量はごくわずかだ。 

それでも「量の多少は問題ではない。使っている以上は責任がある」と決意し、2004年に環境保全プロジェクトを開始した。 

廣岡部長は、「当社がパーム油の使用を止めても、ボルネオの問題は解決しない。現地生産者の生活もある。創業時から『社会課題をビジネスで解決すること』に取り組んできたサラヤだからこそ、現実的な側面から、持続可能なパーム油の生産と環境保全の両立を目指せるのではないかと考えた」と話す。

「1社だけでは、この大きな問題を解決できない」との思いから、消費者に向けたボルネオの環境問題の啓発にも力を入れた。 

同時に05年には、日本に籍を置く企業として初めてRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に加盟。現在、家庭用商品でパーム油を使用してるものは100%RSPO認証マークを取得している。 

06年にはサバ州野生生物局と協力し、政府公認の環境保全団体「ボルネオ保全トラスト(BCT)」を立ち上げた。「緑の回廊」計画は、BCTが現地で進めている。

絶滅の危機に瀕するボルネオゾウ
絶滅の危機に瀕するボルネオゾウ

■社員も消費者も意識が変わった 

ボルネオの環境保全につながる「ヤシノミ洗剤」
ボルネオの環境保全につながる「ヤシノミ洗剤」

「ボルネオのゾウを助けるより、社員に利益を還元してほしい」 サラヤが、「ヤシノミ洗剤」シリーズをはじめとする対象商品の売り上げ(メーカー出荷額)の1%をボルネオの環境保全に寄付する取り組みを始めた07 年当時、社内では否定的な意見も多かった。流通先からも「そんな寄付より、テレビCMをしたらどうだ」など、反応は厳しかった。 

しかし、消費者の共感を得て、問題解決を目指すためには、社内外の理解が必要だ。 

そこで、役員や社員だけでなく、取引先やメディア、時には消費者を招待する視察ツアーを実施、活動の意義を肌で感じてもらうと当時に仲間を増やした。こうした地道な活動は、数年後、多くの環境アワードを受賞するようになり、社内外で高く評価された。 

「社員の意識が高まるとともに、ヤシノミ洗剤の売り上げも、右肩上がりに成長した。消費者の協力がなければ、この活動は続けてこられなかった」(廣岡部長) 

さらに、環境保全活動を続けるなかで、パーム油生産に関わる業界の意識も変わってきたという。 05年、サラヤが加盟した当時、RSPO参画企業はわずか62社だった。しかし世界的にパーム油の問題が注目されるに従い、加盟企業は増加。現在は5200以上になる。さらに資本力のある大規模農園は、RSPOの認証スキームに参加するようになった。

しかし、世界のパーム油生産量が増えているにも関わらず、認証の割合は約20%を維持したままだ(23年データ)。この割合を増やしていくために重要なのが、パーム油生産の4割を占める小規模農家の参加だった。 

資金も人材も仕組みも足りない小規模農家が認証スキームに参加することは難しいが、サラヤは、小規模農家を連携し、RSPO認証スキームに参加することを支援する団体と連携。その団体を通じてRSPO認証油を購入する。   

さらにアブラヤシのみを育てる単一栽培から脱し、多様な植物を栽培し、生物多様性の保全と生計の安定化を図る活動を支援している。

しかし、活動開始から20年間、ボルネオ現地に直接赴き、現場を見てきた廣岡部長には「パーム油の需要は増え続け、森林破壊も続いている」という危機感がある。

海外展開する「ハッピーエレファント」
海外展開する「ハッピーエレファント」

サラヤは23年、米国とフランスで「ハッピーエレファント」シリーズの販売を始めた。日本と同様に寄付付き商品として展開し、ボルネオの問題を広く知らしめたい考えだ。 

「20年前は『偽善』だと揶揄されたが、サステナビリティは当たり前の時代になった。これからの20年は、これまでの20年よりも早いスピードで改善していけるはず。ボルネオの課題が解決するまで、活動を続けていきたい」。廣岡部長は力強く語った。

(PR)サラヤ

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #生物多様性

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