20階建て豪華客船に「グリーンウォッシュ」批判、その理由は

記事のポイント


  1. 世界最大の客船「アイコン・オブ・ザ・シーズ」が1月末、就航した
  2. 運航会社は「動力源はLNGで、環境配慮型のクリーンな客船」と宣伝する
  3. だが、CO2や未燃メタンの排出を考慮せずに「クリーン」とする点が議論を呼ぶ

世界最大の豪華客船「アイコン・オブ・ザ・シーズ」が1月27日に就航した。運航会社は、LNG(液化天然ガス)を動力源とした同船を、「環境面に配慮したクリーンな客船」だと宣伝する。しかしLNGの主成分は化石燃料由来のメタンガスであり、CO2を排出するため、「クリーン」との主張は「グリーンウォッシュ」だとの批判があがる。(オルタナ副編集長・北村佳代子)

世界最大の客船「アイコン・オブ・ザ・シーズ」
Credit: Royal Caribbean Group

世界最大の客船「アイコン・オブ・ザ・シーズ」は米ロイヤル・カリビアン社(本社フロリダ州)が運航する。1月27日、カリブ海クルーズに向けてマイアミ港を出発した。

同船は全長365メートル、20階建てで総重量は25万トン、収容可能人数は乗務員も含めて最大9950人だ。

船としては最大規模のウォーターパークや、インフィニティプール、アイスアリーナ、屋内型アクアシアターなど8つの「街」があり、さながら海上に浮かぶ超巨大テーマパークだ。

この豪華客船の計画がイメージ図とともに公表された2022年11月には、ネット上でこの船が「ヒューマンラザーニャ(人間ラザニア)」と形容されたことも話題を集めた。

■「クリーンエネルギー客船」に疑問符

ロイヤル・カリビアン社は、同船を「環境面にも配慮したクリーンエネルギー客船」だと宣伝する。「環境面で最も優れた先進的な燃料であるLNG」(同社の主張)やメタノールを使うほか、陸上からの電力接続や廃熱回収システムなどを組み合わせていることが理由だ。

しかし、「クリーンな燃料」との触れ込みには、「グリーンウォッシュ」(見せかけの環境配慮)だとの批判が相次ぐ。英ガーディアン紙は1月26日、「最もクリーン?」と疑問符を付けて豪華客船の出航を報じた。

問題視するのは、化石燃料の一つに過ぎないLNGを、「環境面で最も優れた先進的な燃料」とうたっている点だ。

国際クリーン輸送協議会(ICTT)の海洋プログラム責任者・ブライアン・コマー氏は、英ガーディアン紙に、「このような燃料を使用することは、船舶業界が『誤った気候ソリューションに投資している』ことを示している」と語った。

■重油と比べて70~80%排出量多いという指摘も

ICTTは1月25日、LNG燃料船からの実際のメタン排出量が、現行規制の想定より多いとする研究内容を発表している。

LNGを使用することで、従来の船舶燃料(C重油)に比べて二酸化炭素の排出量は4分の1に削減される。しかし、同船は、燃料中のメタンの一部が未燃のまま大気中に放出される「メタン・スリップ」を発生させる。

メタンは二酸化炭素の28倍もの温室効果がある。メタン・スリップ問題は船舶の温室効果ガス問題における重要課題で、各国政府が取り組みを進めているが、抜本的な解決策はまだない。

コマー氏は、「アイコン・オブ・ザ・シーズ」が1回の航行で排出する温室効果ガスが、重油を使用した場合より70~80%多くなると指摘した。

「『アイコン・オブ・ザ・シーズ』は船舶搭載用として最大規模のLNGタンクを積んでいる。これはグリーンウォッシュだ」と断じた。

■ロイヤル・カリビアン社「LNGは移行燃料」
■クルーズ観光が地球環境に与える影響も

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北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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キーワード: #脱炭素

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