記事のポイント
- 企業のロビー活動の透明性を高める「企業の政治的責任(CPR)」が問われる
- 政策の策定企業において企業は、現場の声の共有など影響力の高い存在だ
- EUでは機関投資家が投資先を選ぶ基準に「ロビー活動の透明性」がある
政策の策定において企業は、現場の声や専門的な知見を共有できることから、影響力の高い存在だ。直接政府に提言する企業もあるが、多くの日本企業は、業界団体を通じて間接的に政策関与を行う。このプロセスが健全であるためには、「透明性」が重要で、「企業の政治的責任(CPR)」が問われている。(InfluenceMap アナリスト兼日本投資家エンゲージメントリード=細井レイナ)
「政策アドボカシー」や「ロビー活動」は、世界中でビジネス慣行の一環として行われている。投資家は、直接的または間接的なロビー活動に対して、表向きな声明との整合性が取れているかを確認するため、企業に説明責任を求めている。
日本にも支部を持つ英・独立系気候シンクタンクInfluenceMap(インフルエンスマップ)は昨年11月、GX政策に関する報告書「日本のグリーントランスフォーメーション(GX)政策と気候変動科学」を公表した。
報告書によると、GX政策は、電力、鉄鋼、エネルギー、自動車セクターを代表する一部の業界団体や企業の関与度合いが大きいことが分かった。そしてその関与のほとんどが、1.5度目標と整合していないことも明らかになった。 詳しくは、こちらの記事を参照されたい。
こうした背景を受け、世間や投資家は、企業によるロビー活動の内容を把握する重要性を表明している。
2022年3月に海外の投資家らが発表したResponsible Climate Lobbying: The global standardでは、企業の気候変動政策への関与とパリ協定の1.5℃目標との整合性を確保するための「ガバナンス」と「監視プロセス」を網羅する14の指標を定めた。
欧州ではESRS(欧州サステナビリティ報告基準)、イギリスではTPT(トランジション・プラン・タスクフォース)の開示フレームワークに、政策関与の開示が盛り込まれている。企業が、ロビー活動を開示する必要性は増してきているのだ。
OECDが発表した「21世紀のロビー活動」報告書では、日本では「ロビー活動は透明性に関する規制の対象ではない」としており、「ロビイストや企業の公的決定への影響の信頼性を確保するためには、より包括的で透明性の高い規定が求められる」とした。
1.5℃目標と整合した責任あるアドボカシーの推進と、自主的な透明性の向上が、企業の価値を高める。同時に、気候変動対策はもちろん、政策関与におけるコーポレートガバナンスを推進させる大きな一歩となる。