再エネと水素を組み合わせた「トラフグ養殖」は期待できるか

記事のポイント


  1. 長崎県壱岐市は「RE水素システム」とよばれる水素による電力の貯蔵を始めた
  2. 太陽光発電とトラフグの陸上養殖場、水素の貯蔵設備などを組み合わせた
  3. 再エネの水素備蓄の非効率性を大きく改善できる可能性がある

長崎県の壱岐市が2022年、東京大学などと連携して「RE水素システム」とよばれる水素による電力の貯蔵を始めた。このシステムでは太陽光発電システムとトラフグの陸上養殖場、電気分解装置と燃料電池および水素と酸素の貯蔵設備を組み合わせた。この手法をうまく使えば、「80%はムダになる」という再エネの水素備蓄の非効率性を大きく改善できる可能性がある。(オルタナ客員論説委員・財部明郎)

長崎県壱岐市は「低炭素の島づくり」を掲げ、再生可能エネルギーを推進する
長崎県壱岐市は「低炭素の島づくり」を掲げ、再生可能エネルギーを推進する

■地球温暖化は明らかに進んでいる

この冬(2023年12月~2024年2月)は暖冬だった。気象庁の異常気象分析検討会によると、この暖冬は偏西風の蛇行やエルニーニョ現象の影響もあるものの、地球温暖化がなければこのような暖冬になることはなかったと発表している。分かりやすくいえば、この暖冬は地球温暖化によるものだ。

世界気象機関(WMO)は昨年2023年の世界の平均気温が観測史上最も高かったと発表している。これもエルニーニョと地球温暖化が重なって起こったと分析しているが、地球温暖化がなければ、もっと気温は低かっただろう。

地球が温暖化していることはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)などが従来から警告してきたことであるが、いよいよ私たちの生活の中で肌感覚として「温暖化している」と感じられるようになってきた。

地球温暖化は主に空気中のCO2濃度が増えたことが原因であり、そしてCO2濃度が増えたのは、われわれ人類が化石燃料を燃やしているからである。つまり、地球温暖化はわれわれ人類に原因がある。

しかし、これは考えようによっては幸いなことだ。なぜなら人類が起こしたものであるならば、人類の手で解決することができるからだ。地球温暖化が自然現象であれば手の打ちようがない。

■使わない再エネは「ストレージ」できる

CO2はさまざまなところから排出されているが、その主な発生源のひとつは化石燃料を使う火力発電である。だから火力発電をやめてCO2を排出しない太陽光や風力発電のような再生可能エネルギーを使った発電方法に変えていかなければならない。

幸い、わが国の再生可能エネルギー発電は年々増えつつあり、全発電量に占める割合は2022年度には21.7%に達している。さらに政府はこれを2030年までに36~38%まで引き上げることを目標としている。

しかしながら、太陽光はもちろん夜間には発電できないし、風力は風がなければ発電しない。その反面、逆に発電量が必要量より多い時には系統への送電が止められてしまうことになる。これを出力制御というが、近年、出力制御の回数が増えつつある。これも再生可能エネルギーの割合が増えてきて、その影響が無視できなくなってきたということだろう。もったいないことではあるが、今後も出力制御は増えてくることになる。

そして今後、さらに再生可能エネルギー発電を増やしていこうとするなら、何らかの方法で余剰になった電力を蓄えておき、不足したときに再び電力に変えて送電する。そんな仕組みが必要となる。つまりエネルギーストレージシステムである。

■水素で電力を蓄えると8割がムダに

そのような、電力を蓄える方法の一つとして提案されているのが水素だ。再生可能エネルギーが余剰のときは、その電力で水を電気分解して水素を作って貯蔵しておき、電力が不足した時には、その水素を使って燃料電池で発電する。

水の電気分解装置も燃料電池もすでに技術はできているから、この技術を組み合わせればできる。

ただ、この方法には問題がある。水を電気分解するときのエネルギー効率は70%くらいしかなく、さらに燃料電池で水素から電力を取り出すときのエネルギー効率はもっと低くて、低温でも作動する固体高分子形の場合30%くらいしかない。

すると全体の効率は20%くらいになってしまう。つまり、余剰電力を水素にして蓄えようとすると、その8割方がムダに捨てられてしまうことになる。

例えば100Whの電力が余剰になったとして、その電力を水素で蓄えることを考えてみる。この場合、100Whの電力を使って水を電気分解して水素を作ると、その水素の持つエネルギーは70Whまで低下してしまう。

そしてその水素を使って燃料電池で発電すると、その発電量は20Whにしかならないという計算になる。水素でエネルギーを蓄えるというのはかなり無駄の多いやり方なのだ。

しかしながら、このエネルギーの無駄を巧妙な方法で極力減らした事例があるので紹介したい。

■壱岐市の「低炭素の島づくり」とは

舞台となるのは長崎県の壱岐島だ。壱岐島は九州から北北東へ約20kmの玄界灘に浮かぶ離島で、面積は113.9km2。人口約2万5,000人。最も高い山でも標高212.8mだから高低差があまりない平地の多い地形である。

壱岐島および周辺の島々を含めて壱岐市の市域となっている。離島といっても山手線の内側の2倍程度の面積を持つ島だ。

壱岐市は第2次総合計画において「低炭素の島づくり」を掲げて、再生可能エネルギーの推進に努めている。九州には離島が多い。

本土と電力系統が連携されていない島では一般にディーゼル発電機で電力が供給されるが、壱岐も同様で、使用される電力のほとんどは島内に2か所あるディーゼル発電機から供給されている。

このような島で低炭素を実現するためには太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギーを導入する必要があるが、本土と連携されていない壱岐では電力の需要と供給の変動が激しく、先に述べたような出力調整が頻繁に行われることになる。

そこで、壱岐市は不安定な再生可能エネルギーを安定して利用するために、東京大学などと連携して「RE水素システム」とよばれる水素による電力の貯蔵を行うことにした。このシステムは2022年夏、すでに完成している。

(この続きは)

■排熱も利用すればエネルギー効率は80%に
■実は日本全体が離島だった

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財部 明郎(オルタナ客員論説委員/技術士)

オルタナ客員論説委員。ブロガー(「世界は化学であふれている」公開中)。1953年福岡県生れ。78年九州大学大学院工学研究科応用化学専攻修了。同年三菱石油(現ENEOS)入社。以降、本社、製油所、研究所、グループ内技術調査会社等を経て2019年退職。技術士(化学部門)、中小企業診断士。ブログでは、エネルギー、自動車、プラスチック、食品などを対象に、化学や技術の目から見たコラムを執筆中、石油産業誌に『明日のエコより今日のエコ』連載中

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キーワード: #脱炭素

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