サステナ経営に「インパクト投資家」は欠かせない

記事のポイント


  1. 「インパクト投資に関する基本的指針(案)」が公表され、年度内には正式決まる
  2. サステナビリティ経営への示唆もあり、経営者・企業人にも参考になる
  3. 企業とインパクト投資家はサステナビリティ経営推進の重要なパートナーだ

インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針(案)」(以下、本指針案)が2月20日に公表されました。本指針案は投資家・金融機関が対象ではありますが、その内容はサステナビリティ経営を目指す企業(上場企業、中堅・中小企業、スタートアップなど)にも示唆に富むものです。経営者をはじめ多くの企業人が本指針案を丁寧に読み込み、自社のサステナビリティ経営のあるべき姿を考える上での参考にしていただきたいと思います。(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

インパクト投資に関する基本的指針とは

インパクト投資には、社会課題を解決し、社会や環境に対してポジティブな影響を与えるという明確な「意図」が必要です。インパクト投資とは、その様な「意図」に基づき、投資として一定の投資収益の確保を図りつつ、社会・環境的効果(インパクト)の実現を企図する投資です。

サステナビリティ経営にも、自社の社会的存在意義である価値観(パーパス、企業理念等)が必要です。サステナビリティ経営とは、その様な価値観に基づき、社会・環境的効果(社会価値)と収益性(経済価値)の同時実現を目指す経営です。

2023年6月、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2023」を公表しました。その中で、「インパクト投資の普及に向けた基本的指針を年度内に策定」することが明記されました。

同じ2023年6月、金融庁「インパクト投資等に関する検討会」(座長:柳川 範之 東京大学大学院経済学研究科教授)では、8回にわたる検討を経て「インパクト投資等に関する検討会報告書」が公表されました。

本指針案は、同報告書に盛り込まれている「インパクト投資に関する基本的指針(案)」への市中協議を経て公表されました。3月末までに正式決定されます。

同報告書によると「インパクト投資の定義には幅があるが、各種調査では趨勢的な増加傾向が確認されており、民間資金の投資残高は、グローバルには概ね 3,000 億ドル~1兆ドルといわれる。日本でも、2021年における市場規模は最大5兆円との試算がある」ということです。

本稿では、本指針案を紐解きながら、サステナビリティ経営とインパクト投資との関係性、サステナビリティ経営への示唆などについて考えてみたいと思います。以下、あくまで筆者の個人的な見解であることをお断りしておきます。

サステナビリティ経営とインパクト投資は軌を一にする
インパクト投資に求める「4つの基本的要素」
「パーパスやビジョン」と投資家の「意図」との整合性を
社会・環境的効果を「価値創造ストーリー」として説明せよ

本指針案には以下の様な記述があります。太字は筆者です(以下、同様)。

1,社会・環境課題への関心が高まり、ビジネスモデルや技術の革新等が進む中で、社会・環境的効果と事業は、様々な工夫の下で相互に補完・強化し、両立する関係(好循環:positive feedback loop)に十分になり得るものである。
2,社会・環境的効果の創出を成長の機会に結び付け、好循環を実現させる事業上の変革が重要である。
3,投資を通じて実現を図る「効果」の意図を予め明確にし、事業上の工夫により活性化を図ることが重要であり、投資の事後に結果として効果が生まれたものを遡及的に「インパクト投資」とする趣旨ではない。 
4,重大な負の効果がある場合には、「意図」した社会・環境的効果と相殺せず、当該負の効果自体の緩和・防止に取り組む必要がある。 

これらはサステナビリティ経営にもすべて当てはまります。以下、補足です。

2点目:サステナビリティ経営では、社会・環境的効果(社会価値)と収益性(経済価値)の同時実現に資するビジネスモデル構築とそのためのイノベーション(事業上の変革)が鍵となります。

3点目:「投資」を「事業投資」、「インパクト投資」を「サステナビリティ経営」に置換すれば、企業にも当てはまります。

4点目:例えば脱炭素に向けた事業遂行の途上でサプライチェーン上での人権侵害が発生した場合、それら(脱炭素と人権侵害)は相殺されるものではありません。企業は脱炭素に向けた事業を継続しつつ、人権侵害の緩和・防止に取り組む必要があります。

この様にサステナビリティ経営とインパクト投資は表裏の関係であると共に、その考え方は軌を一にしているといえます。

インパクト投資の4つの基本的要素とは

本指針案では、インパクト投資の要件が「基本的要素」として以下の4点にまとめられています。

1,実現を「意図」する「社会・環境的効果」が明確であること(intention)
2,投資の実施により、効果の実現に貢献すること(contribution)
3,効果の「特定・測定・管理」を行うこと(identification/measurement/ management) 
4,市場や顧客に変革をもたらし又は加速し得るよう支援すること (innovation/transformation/acceleration) 

ここでは「基本的要素1」に着目して、サステナビリティ経営への示唆を2点ほど提示させていただきます。なお、「基本的要素2~4」からも様々な示唆を得ることができますが、割愛します。

示唆① 企業の「パーパスやビジョン」と投資家の「意図」との整合性が重要

「基本的要素1」には以下の様な説明があります。

投資先企業の事業上の意図が、投資家・金融機関の意図と基本的に整合していることを確認し、投資後の投資先との対話の方針が検討されていること  

また、「考え方(対話の方針)」には以下の様な説明があります。

・事業を通じ効果を実現する最終的な主体は事業者であり、事業者自身が課題解決と事業性実現の意図を持ち、これが投資家の意図と基本的には整合していることを確認しておくことも重要である。
・資金提供者においては、自身の「意図」について明確に表明するとともに、事業者の経営理念(パーパス)や戦略、経営計画等の企業の戦略等において示されている事業者の意図についても対話等を通じて確認することが重要である。 

本指針案は、企業に対しサステナビリティ経営の実践を求めています。

サステナビリティ経営では、自社の社会的存在意義である価値観(パーパス、企業理念等)を明確にし、その実現のための長期ビジョンやビジネスモデル・戦略等が策定されます。

投資先企業の事業上の「意図」とは、当該企業の「パーパス、企業理念等」及びその実現に資する「長期ビジョンやビジネスモデル・戦略等」(に含意されているもの)と理解できます。

投資家・金融機関と投資先の企業は、お互いの「意図」が基本的に整合していることを対話やエンゲージメントを通してしっかり確認しておくことが重要です。

示唆② 目指す社会・環境的効果を「価値創造ストーリー」として説明する

同じく、「基本的要素1」には以下の様な説明があります。

実現に向けた投資の戦略や方針が示され、またこれに基づく対話を通じ、投資先の事業が如何にして市場を拡大・開拓・創造し、又はその支持を得て、社会・環境的効果と収益の双方を実現するか、長期的に実現する場合を含め具体化されていること 

また、「考え方(意図の設定)」には以下の様な説明があります。

投資や事業が如何に社会・環境の変化に貢献するのかの戦略を具体化し、投資実施の時点の意図として、実現を図る「効果」と、市場や事業の拡大見込みといった事業の戦略が、整合的に理解し得ることが重要と考えられる。

インパクト投資を成功に導くために、投資家・金融機関にとって肝となることが記されていると思います。

投資がどのような過程を通じ社会・環境的効果と収益性を生み出すか、その変化を実現する仕組み・プロセスや因果関係をTheory of Changeやロジックモデル等のフレームワークを活用しながら具体的に説明することが重要です。

これはそのままサステナビリティ経営にも当てはまります。

サステナビリティ経営で目指す社会・環境的効果及び収益性の創出が、自社の長期ビジョンやビジネスモデル・戦略等においてどの様に位置づけられ、どの様な仕組み・プロセスや因果関係で整合性をもって実現されるかを分かり易く説明することが重要です。

その際、研究開発投資や設備投資、人的資本・知的資本など無形資産への投資を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのか、自社の価値創造や競争優位の源泉(組織としての独自性・強み)は何か、それが社会・環境的効果及び収益性の創出にどのような影響を及ぼしうるのか、などについて論理的に説明することが必要です。

その様な「価値創造ストーリー」の開示が、投資家を始めとするステークホルダー全体の理解を促進し、中長期の企業価値向上に繋がると共に、インパクト投資の意義の訴求にも貢献します。

まとめ

サステナビリティ経営とインパクト投資は、持続可能な社会の発展と中長期的な企業価値の向上に向けた「車の両輪」です。企業は、インパクト投資家をサステナビリティ経営推進の重要なパートナーと認識することが必要です。

企業が顧客・社会に提供する製品・サービスの社会・環境的効果と収益性の持続的な創出に向けて、企業(経営者、従業員)とインパクト投資家が知恵を出し合い、切磋琢磨することが重要です。

お互いの「価値観」や「意図」を尊重しながら、社会・環境的効果と収益性の同時実現を目指す「価値創造ストーリー」を中心テーマとする建設的な対話・エンゲージメントが求められています。

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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キーワード: #サステナビリティ

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