記事のポイント
- メキシコの大統領選挙でクラウディア・シェインバウム氏が当選確実となった
- メキシコ初の女性大統領となるシェインバウム氏は気候科学者だ
- 国連「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」のメンバーを務めた
6月2日に実施されたメキシコ大統領選挙では、前メキシコシティ市長で与党から立候補したクラウディア・シェインバウム氏の当選が確実となった。メキシコ初の女性大統領となるシェインバウム氏は、環境科学者だ。政界入りする前は、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」のメンバーを務めた。(オルタナ副編集長・北村佳代子)
今年10月にメキシコ大統領に就任することになるクラウディア・シェインバウム氏は、エネルギー効率、サステナビリティ、環境に関する科学的研究と政策提言で知られる。国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が作成した「IPCC第4次評価報告書」および「IPCC第5次評価報告書」で、彼女は第3作業部会のメンバーとして執筆した。
IPCCとは、気候変動とその対策に関する科学的な知見を提供する国際組織だ。例えば、気温上昇を産業革命前から1.5℃以内に抑えようというパリ協定の「1.5℃目標」も、IPCCがまとめた報告書を根拠としている。
シェインバウム氏も貢献したIPCCは、2007年、前米副大統領のアル・ゴア氏とともに、「人為的に起こる地球温暖化の認知を高めた」としてノーベル平和賞を受賞した。
シェインバウム氏は、化学エンジニアの父と、細胞生物学者でUNAM大学の名誉教授の母のもとに生まれた。「両親は自分に、政治への情熱、自然への愛、科学への深い関心を授けてくれた」と、彼女は語る。
メキシコ国立自治大学(UNAM)で物理学の学位を取得後、エネルギー工学で修士号・博士号を取得した。彼女は人生の多くを、再生可能エネルギーと気候変動に焦点を当てた大学教育に捧げてきた。そのアカデミアでのキャリアは数々の称賛を浴びている。
今は2人の子どもと1人の孫がおり、パートナーはメキシコ銀行の金融リスク専門家だ。
■メキシコ市長時代には殺人件数が50%減少
彼女の政治家としてのキャリアは、2000年にスタートした。当時、メキシコシティ市長に選出されたアンドレス・ロペス・オブラドール氏(現大統領)が、彼女を市の環境長官に抜擢した。巨大都市の深刻な公害と交通渋滞への対処に向けて、科学的知見を有する人材として白羽の矢を立てられ、2006年までその任務を遂行した。
2018年、シェインバウム氏は、メキシコシティ初の女性市長として歴史的勝利を収める。在任中はメキシコシティの殺人件数が50%減少し、治安が改善したことで称賛を浴びた。市長在任中は、屋上太陽光発電と自転車・公共交通インフラを推進した。
メキシコは、G20ならびにOECD加盟国の中で、唯一、ネット・ゼロ排出目標を設定していない。科学者として、気候変動対策への取り組みにも期待したい。
■メキシコは最高裁長官や中銀総裁も女性に
今回初めて女性大統領を選出したメキシコでは、実は最高裁や中央銀行のトップにも女性が就任している。
メキシコは2014年、政党に国会議員候補者を男女同数にすることを義務づけた。この制度は「パリテ」と呼ばれるが、2019年には、「パリテ」の下で当選した多くの女性議員たちによって、すべての公的部門にパリテを適用する憲法改正が行われた。
その結果、いまやメキシコの最高裁判所長官、上院・下院の両院議長、中央銀行の総裁はすべて女性だ。現政権下でも、内相、教育相、経済相、治安相、外交相を女性が務めている。
英ロンドン大学でジェンダーと政治を研究するジェニファー・ピスコポ教授は、「メキシコの事例は他国のモデルとなる」と、ニューヨーク・タイムズ紙にコメントした。