「放射能から守るつもりが、子どもたちにはきつい言葉ばかり投げ、夫とも言い争った。気持ちが普通でなくなるようだった」。今は夫を郡山に残し、借り上げ住宅で子供と暮らす。「これまで非日常の日々を耐えてきたのに、今度はさらに住まいを取り上げるのか。自主避難を選ばなければいけなかった私たちの暮らしを守ってほしい」。郡山の自宅は築5年。手放すにしても、住宅ローンの重荷がのしかかる。
■行政は「もう3年たった」と他人事
「札幌市では期限ギリギリになってようやく延長の決定が下る。不安定な住宅環境に耐えかねて、福島に戻らざるを得なくなった人もいる」。前出の伊藤孝介さんは、延長の実態をこう話す。
当初は2年間だった原発避難者向けの仮設住宅の期限は、これまで2回延長が認められたが、期間はいずれも1年だけ。合計でも4年に過ぎない。しかも1年ずつの延長では避難者は仕事や進学などの予定を立てられず、生活の再建ができない。福島での原発避難者の震災関連死者数は、この1年で300人以上も増えた。
日本弁護士連合会(日弁連)で避難者の住宅確保支援に取り組む津久井進弁護士は、行政側の対応を「もう3年も経過して落ち着いたとか、公営住宅も空きがなくて苦しいなどと、まるで他人事のように考えている」と指摘する。
東電原発事故で生活を破壊された避難者が求めているのは、無償かつ長期の住宅提供だ。福島市から札幌市に移住し、借り上げ住宅で暮らす中手聖一さんは「今の住まいにあと3年、住まわせてもらえたら」と訴えた。