■社会から見た企業の役割をSDGs視点で考える(3)
記事のポイント
- 日本はジェンダー関連の問題を多く抱える国の一つだ
- それなのに日本社会の人権問題への関心は低いままだ
- 企業が優秀な人材を採用したいなら、男女格差への対応は急務だ
選択的夫婦別姓・男女の賃金格差・性的少数者の人権など日本社会には「人権」を巡る課題が多々あります。それにも関わらず、なぜ日本では人権問題に対する関心が低いのでしょうか。企業が優秀な人材を確保するには、男女格差を含め、根本からの組織制度と社内文化の是正は組織戦略的にも重要であり急務です。(オルタナ総研所長=町井 則雄)
■国連の女性差別撤廃委員会が日本に8年ぶりの「勧告」
女性差別撤廃条約の実施状況を審査する国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)が10月29日に8年ぶりとなる日本政府に対する勧告を含めた「最終見解」を公表しました。
審査は数年ごとに行われるもので、日本に対しては2016年に続き6回目の勧告となりました。これらの勧告に法的拘束力はありませんが、日本は1985年(昭和60年)から当該条約に批准していることから、これらの勧告に真摯に向き合う必要があります。
今回の最終見解は「選択的夫婦別姓の導入」、「個人通報制度を定めた選択議定書の批准」や「性的少数者の人権」など多岐にわたる内容となっています。
日本でSDGsが語られる際、その中心は主に環境問題です。もちろん環境関連の目標がSDGsのウェディングケーキモデルの最下層にあることを踏まえればこれは重要なことです。
■SDGsは最重要事項として「人権」を挙げた
一方で、SDGsの目標の1~5が人権に関する課題に対する目標なのは、人権の問題がSDGsにとって最重要事項であることを示しています。その重要さについて日本社会は全体的に関心が低いと言わざるを得ません。
先述のCEDAWの過去6回にわたる勧告にもあるように、「女性差別」という点から見るだけでも日本社会には人権を巡る課題が多々あるにも関わらず、なぜ日本では人権問題に対する関心が低いのでしょうか?
これには日本独特の歴史的背景と文化など複合的な要因が絡み合っていて単純ではありません。しかし、根源的な例を一つ挙げるならば、CEDAWが注釈付きながらも皇室典範改正に触れていることには注目すべきでしょう。
■「男系男子」による皇位継承問題は、男女平等の課題の一つ
この「男系男子」による皇位継承問題は、世界から見れば男女平等という視点からの課題です。しかし、日本での皇位継承の問題は次の継承者としての男子が居ない(少ない)ために女系天皇を認めるべきという議論となるわけです。
この皇室の問題は、日本人にとってアイデンティティの一つであり、大なり小なり日本社会全体の意識形成に影響を与えています。
特に、憲法の第一条で「天皇は日本国民統合の象徴」とされており、それが「男系男子」に限られていることが男女格差であるというような課題感を私たちが持っていないことには留意すべきです。
このような根源的な点も含め、日本社会全体の人権問題に関する意識変革には時間がかかるだろうと思います。
しかし、企業が優秀な人材を確保するという視点でこの課題を考えるのであれば、この男女格差を含めた根本からの組織制度と社内文化の是正は組織戦略的にも重要であり急務でもあります
■絶対値だけを求めると、組織の弱体化につながることも
大前提として、性別や年齢、人種といった多様性の否定や男女格差、偏見などは長期的、戦略的に見て組織にとってマイナスになるということを理解しておく必要があります。
なぜなら、私たちはインターネットを通じて多様な文化や制度、価値観の世界と常時つながっているからです。これらの機会が今後さらに増えることはあっても減ることが想定できない以上、ビジネスの在り方や組織戦略はそれを前提とすることが求められます。
その上で意識すべきは、人権に関する制度を表面的にいくら整えても本質的な社員の意識が変わらない限り、多様性や男女平等が組織にもたらす好循環を生む土壌にはならないということです。
むしろ制度により経営層や管理職の男女比率といった絶対値のみを求めることは、時として組織の弱体化につながることにもなりかねません。
■日本の社会制度の脆弱さを逆手に取るべき
最も大事なことは、偏見や格差を取り去った上での適材適所が実現できているかであり、その適材適所を判断できる業務評価や人事評価制度が確立できているかどうかです。これは社会的にもまだ途上であり、今後の進化に期待するところ大です。
たとえば、米国では法律で履歴書に性別や年齢、顔写真などを記載することが禁じられています。これはもちろん差別防止のための施策ですが、日本にはこのような法律はありません。
これは日本の社会制度の脆弱さと言えます。しかし、それを逆手にとれば、自社で履歴書提出にあたって性別や年齢、人種などは一切関係ないというスタンスを明確に打ち出すことで他社との違いを明確にすることができるだけでなく、そのような社風の会社で働きたい人材を意図的かつ効果的に集めることができるのです。
これは一つのシンプルな例ですが、このような仕組みの導入でも組織の考え方や向かおうとする方向性などを戦略的に示していくことができます。
それはわかりやすいが故に社員の意識の変革につながり、多様性や男女平等による価値を組織の中で最大化できる強靭な組織づくりのきっかけにもつながっていきます。