「ソーシャル・インパクト・ボンド」の議論を【CSRフロンティア】

その多くが、市場メカニズムを公共サービスの資金調達に活用し、社会課題を効率的に解決しようというものである。中でも、政府とNPOを巻き込み、協力させようとする興味深い仕組みが、辻元議員が言及したソーシャル・インパクト・ボンドなのである。これは、行政に替わる新たな社会的サービスによって改善された成果について、行政が対価を支払う仕組みだ。サービス提供はNPOが行うが、そのための資金は民間の投資家から募る。NPOは活動資金を獲得、行政はコストが下がり、投資家は経済的リターンを受け取るという皆にメリットがある話である。

そもそもは2010 年、英国のピーターボロウ刑務所で短期受刑者の釈放後の再犯率低下を目的にした更生プログラムで活用されたのが最初。これまでに米国、カナダ、オーストラリア、オランダなどで導入され世界に広まったが、日本ではまだ実績はない。サービスの対象はホームレス、若者の就業支援、教育支援などが候補だが、予防に重点を置いたものがよいとされている。

自治体の赤字削減に貢献するという点だけをみてもすばらしいアイデアだが、以下のような課題があるのも確かだ。①行政、NPO、金融機関など関係者のコンセンサスと協力が不可欠だが、まだ共通の理解に至っていない。②提供されたサービスの成果があがらないとリターンがないばかりか、投資額そのものも返ってこないリスクがある。③成果があがったかどうかの評価方法が確立されていない。④投資家へのリターンの原資を行政が拠出するわけだが、自治体が、納税者への説得力ある説明や、成果が出るかどうかわからない時点での予算措置などができるかどうか。⑤投資家の確保が困難。個人だけでなく、財団、金融機関などの支援をどこまで得られるか。

しかし、課題山積の現代に有効な仕組みであることは間違いない。導入に向け議論を急ぐべきである。

【はらだ・かつひろ】日本経済新聞社ではサンパウロ、ニューヨーク両特派員。国連、NGO、NPO、社会起業家のほか、CSR、BOP ビジネスなどを担当。日本新聞協会賞受賞。2010 年明治学院大学教授に就任。オルタナ・CSR マンスリー編集長。著書は『CSR優良企業への挑戦』『ボーダレス化するCSR』など。

(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第19号(2014年4月7日発行)」から転載しました)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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