記事のポイント
- フランスとドイツ政府は、欧州委員会に対し、CSRDなどに関する見直しを求めた
- 厳格な規制は欧州企業全体の競争力を弱めかねないとの考えからだ
- しかし、ネスレやユニリーバなどは、規制緩和に反対の立場を取る
フランス政府やドイツ政府は、欧州委員会に対し、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)やCSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)について、延期や修正を求める文書を提出した。複雑で厳格な規制は欧州企業全体の競争力を弱めかねないとの考えからだ。すでに対応を進めてきたネスレやユニリーバなどは、規制緩和に反対の立場を取る。(オルタナ副編集長・吉田広子)
■ 規制は産業の競争力低下を招きかねない
EU(欧州連合)は2019年、脱炭素と経済成長を図る政策「欧州グリーンディール」を掲げた。その一環で、2021年に始まったのがEUタクソノミー規則だ。タクソノミーは「分類」を意味し、持続可能な活動かどうか判定するために使われる。サステナブル投資を促進するのが目的だ。
さらに、企業に持続可能性に関する情報開示を求める動きは加速し、2023年1月には対象企業にESG(環境、社会、ガバナンス)の情報開示を義務付けるCSRDが発効した。2024年度の会計年度から段階的に適用が始まった。
2024年7月には、対象企業に環境や人権のデューデリジェンスの実施や開示などを義務付けるCSDDDが発効した。2027年7月以降に段階的に適用が開始される予定だ。
しかし、EUでは、こうした持続可能性に関する規制は域内産業の競争力を低下させるとして、見直しを求める動きが強まっている。2024年6月の欧州議会選挙で、中道右派のEPP(欧州人民党)が勝利したことや、米国で反ESGを掲げるトランプ政権が誕生したことも、影響しているとみられる。
欧州委員会は2024年11月、CSRD、CSDDD、EUタクソノミー規則といった複数の法規制での重複などを見直し、新たにオムニバス法案として簡素化する計画を発表した。欧州委員会は2月にオムニバス法案を提案する予定だ。
■ 仏政府はCSDDDの無期限延期を求める
フランス政府やドイツ政府は1月、中堅・中小企業の負担への懸念や、複雑で厳格な規制は欧州企業全体の競争力を弱めかねないとの考えから、CSRDおよびCSDDDの一部について、実施の延期や大幅な修正を求める文書を欧州委員会に提出した。特にフランス政府はCSDDDの無期限延期を求めた。
■ ネスレ、ユニリーバなどは規制緩和に反対
一方で、すでに規制への対応を進めてきたネスレ、ユニリーバ、米食品大手マース、ロクシタンなど11社・団体は1月17日、新たなオムニバス法案によって既存の規制が緩むことは避けるべきだとの意見を表明した。
規制には「一貫性、明確性、信頼性」が必要だとし、「欧州委員会からの明確な指針と支援があれば、既存の規則の実施は企業、労働者、消費者、そして欧州経済にとって実用的かつ実行可能なものになると確信している」と訴えた。