サステナ経営塾第20期下期第2回レポート

株式会社オルタナは2024年11月20日、「サステナ経営塾」20期下期第2回をオンラインとリアルでハイブリッド開催しました。当日の模様は下記の通りです。

①企業事例: ブリヂストンのサステナビリティビジネスモデル

時間: 10:20~11:50

講師: 稲継 明宏氏(ブリヂストン グローバルサステナビリティ戦略統括部門 統括部門長)

第1講は、ブリヂストン・グローバルサステナビリティ戦略統括部門の稲継明宏・統括部門長が「ブリヂストンのサステナビリティビジネスモデル」と題して講義した。講義の要旨は下記の通り。

・ブリヂストンはタイヤ・ゴムのリーディング企業として、「最高の品質で社会に貢献」を使命に掲げ、社会価値・顧客価値を両立しながら、社会やパートナー、お客様と共に自社も持続的に成長する、社会と企業のサステナビリティの両立を大切にしている。

・ブリヂストンでは、商品を「創って売る」「使う」、原材料に「戻す」という、バリューチェーン全体でカーボンニュートラル化やサーキュラーエコノミーの実現を目指す取り組みと、ビジネスモデルを連動させるブリヂストン独自のサステナビリティビジネスモデルの確立を進めている。

・例えば、トラック・バス向けの事業では、競争力の高い新品タイヤをベースに、リトレッド(すり減ったタイヤの表面(トレッド)ゴムを貼り替えること)タイヤやメンテナンスなどのサービスを組み合わせてソリューション事業として提供することで、タイヤの資産価値を最大化する循環ビジネスモデルを推進している。

・天然ゴムは生産量の70%がタイヤとして使われており、天然ゴムの持続可能なサプライチェーンの構築がビジネスの持続性においても重要である。ネイチャーポジティブに向けて、ビジネスモデルをより循環型・再生型へと進化させており、事業に直決している天然ゴム・水資源の持続可能な利用に向けた活動に注力している。

・講義後、受講者からは、統合報告書を起点にどのように社内のサステナ経営の浸透を進めているのか、その際に意識していることについての質問が出た。稲継氏は、言葉の浸透と、理解度にはギャップもあるとしながらも、サステナビリティが、経営方針と別の文脈で語られることのないよう、経営や企業文化の中に入れ込んで情報発信・提供していると回答した。

・またネイチャーポジティブでの水資源の活用についてもどのように取り組んでいるか、受講者から質問が出た。稲継統括部門長は、地域性がある中で、グローバルで水ストレスの高いエリアを特定し、地域における水資源の公平な活用などを定めたウォータースチュワードシップポリシーに沿って、特定された17拠点が個別に、どのように水の利用をすべきかウォータースチュワードシッププランを立てていると回答した。計画達成に向けたフォローと同時に、今後は自社拠点だけでなくサプライチェーンまで広げていくかが課題だという。

②サーキュラーエコノミーとプラスチック資源循環促進法

時間: 13:00~13:50

講師: 細田 衛士氏(東海大学 副学長 政治経済学部教授)

第2講は、東海大学・政治経済学部の細田衛士副学長が登壇し、「サーキュラーエコノミーとプラスチック資源循環促進法」を解説した。

・2030年に2013年比46%の温暖化ガス削減、2050年のカーボンニュートラルは静脈経済にも厳しい制約となる。
・熱回収は廃プラスチックの場合、CCUSやカーボンオフセットなどと繋げない限り難しくなる。しかしカーボンオフセットには限りがあり、CCUSは非常にコストが高い。ここが、法制度、技術、経済性の接点であり、プラスチック資源の高度な循環利用を難しくする点だ。
・しかし、適切なインターフェースを作ることによってうまくフローを制御することが可能になるかもしれない。いきなりすべての廃プラスチックの熱回収を止めるのは経済的に合わない。
・しかし、マテリアル・リサイクル、ケミカル・リサイクルの技術は向上するから、熱回収から徐々にマテリアルかケミカル・リサイクルにシフトさせる制御が必要だ。
・そのためには、ダイナミックな計画(ロードマップ)を立てる必要がある。その時、長期的にはCCUSの経済性が非常に大きな制約要因になる。CCUSに過剰な期待は寄せられないだろうから、ロードマップの主役はマテリアルかケミカル・リサイクルになるだろう。
・もとより、廃棄物処理の優先順位(Waste Hierarchy)に従ってまずは発生回避が求められるが、そのためにはプラスチック製品・素材の高付加価値化が不可欠。マテリアル・リサイクルの高質化にも資する。
・ケミカル・リサイクルはともかくマテリアル・リサイクルの場合、単一素材化も一つの方向。ただし、高付加価値化と単一素材化はトレード・オフの関係に陥る恐れもあるから要注意が必要だ。

③ワークショップ: サステナビリティレポートの相互チェック

時間: 14:35~15:55
講師: 森 摂(オルタナ 代表取締役/オルタナ編集長)

第3講ではワークショップを行った。パイロット企業のサステナビリティレポートをグループ内で発表し、それぞれの課題や解決策について話し合った。

森が解説したサステナビリティレポートの作成において重視すべきポイントは、下記の通り。

・「誰に読んでもらいたいのか」という対象読者を明確にすることが重要だ。特に未来の株主、未来の顧客、そして未来の社員といったステークホルダーを意識してほしい。

・「E」(環境)、「S」(社会)、「G」(ガバナンス)それぞれの視点が重要だ。「E」(環境)だけでなく、女性の役員比率や障がい者雇用率など、「S」(社会)や「G」(ガバナンス)にも言及することで取り組みへの説得力が増す。

・パフォーマンスが良くない数値でも、開示することには意義がある。ステークホルダーは進捗を見ている。改善していくことを示せれば、信頼関係の深まりにつながる。勇気をもって開示してほしい。

・紙であれば大体30~40ページのレポートが読みやすい。オンラインであればフル版とレジュメ版に分けて掲載するなど、読者が読みやすい工夫が必要だ。

・写真や図を多くすることで読みやすくなる。雑誌のようなかみ砕いた文章構成も良い。写真を活用するときは、なるべく社員が働いている様子を載せるのが良い。動きを見せることで、雰囲気が伝わりやすくなる。

・日本企業では、網羅的に細かい情報を載せるなど、細則主義の傾向がある。しかし、それではページ数が膨大になり、かえって読み手に伝わりにくくなる。原則主義であれば、重要な点に絞るので読みやすくなる。「16の非財務情報」を参照することで、どの情報が重要かを見極めてほしい。

④りそなアセットマネジメントのステュワードシップ戦略

時間: 16:10~17:30

講師: 松原 稔氏(りそなアセットマネジメント チーフ・サステナビリティ・オフィサー 常務執行役員 責任投資部担当)

第4講には、りそなアセットマネジメントの松原稔チーフ・サステナビリティ・オフィサーが登壇し、「りそなアセットマネジメントのステュワードシップ戦略」について講義した。

・機関投資家が対話を通じて企業の持続的成長を促すために、金融庁は2014年に、「責任ある機関投資家」の諸原則を定めた「日本版スチュワードシップ(受託者責任)・コード」を策定。その後、金融庁と東京証券取引所は、2015年に「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」を公表した。上場企業は、「コンプライ・オア・エクスプレイン(従うか、説明せよ)」の原則に基づき、情報開示や説明責任を果たさなければならない。 

・りそなアセットマネジメントは、2015年にりそな銀行の資産運用や投資・信託部門を統合して生まれた会社で、その運用資産残高は約57兆円に上る(2024年9月末現在)。同社は、パーパス(存在意義)に「将来世代に対しても豊かさ、幸せを提供すること」を掲げ、その一環で、投資先企業との対話・エンゲージメントを強化している。 

・りそなアセットマネジメントは、スチュワードシップ(受託者責任)活動に関する考え方や活動実績、方針を示すため、2019年からスチュワードシップ(サステナビリティ)レポートを発行している。背景には、「実現したい未来に対して、『責任ある投資家』として、企業と共に実現できる道を探りたい」(松原氏)という思いがある。 

・そのための手段が、「マテリアリティ(トップダウン)エンゲージメント」「情報開示エンゲージメント」「ボトムアップエンゲージメント」の3つだ。 

・同社は「責任ある投資」を実行するために、マテリアリティ分析を行い、「気候変動」「生物多様性保全」「児童労働・強制労働」といった重要課題を抽出した。さらに、重要なステークホルダーとして、「次世代」よりも長期的な「将来世代」を据えた。 

・エンゲージメント活動の代表的なテーマが、サステナブルなパーム油の調達だ。パーム油は、食品や日用品、化粧品などに使用されているが、パーム農園開発に伴う森林破壊、児童労働や強制労働、先住民との軋轢などの問題がある。そこで、同社は、対象企業を選定し、インハウス・エンゲージメントを行う。 

・「情報開示エンゲージメント」では、AI(人工知能)を活用して、統合報告書を分析する。「資本コストとROE_ROIC」や「非財務KPIや納得性」といった定量スコアを開示し、統合報告書の開示の相対的充実度を可視化している。対話・エンゲージメントを実施する際は、担当者が評価スコアの背景や改善点について説明を行うという。松原氏は、「大事なのは、企業価値を高めることだ」と話す。 

・同社は、投資先企業との対話・エンゲージメント活動に力を入れるが、「投資家と企業にとっての『価値』には、大きなギャップがある」(松原氏)という。「投資家にとって企業は『銘柄』だが、企業は自身を『法人』と認識している。投資家にとっての価値とは、『将来財務価値』を意味するが、企業の存在価値は財務価値にとどまらない。だからこそ、そのギャップを理解し、コンバート(変換)していく作業が必要だ」と説明する。 

・松原氏は、「企業が新たな価値をどう創造していくのか。どう顧客価値を高め、さらには産業構造を変革し、どう新たな市場を開拓するか。将来に向けた価値創造プロセスを投資家に説明していくことで、ギャップを克服できる」とアドバイスした。 

susbuin

サステナ経営塾

株式会社オルタナは2011年にサステナビリティ・CSRを学ぶ「CSR部員塾」を発足しました。その後、「サステナビリティ部員塾」に改称し、2023年度から「サステナ経営塾」として新たにスタートします。2011年以来、これまで延べ約700社900人の方に受講していただきました。上期はサステナビリティ/ESG初任者向けに基本的な知識を伝授します。下期はサステナビリティ/ESG実務担当者として必要な実践的知識やノウハウを伝授します。サステナ経営塾公式HPはこちら

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