株式会社オルタナは2024年12月18日に「サステナ経営塾」20期下期第3回をオンラインとリアルでハイブリッド開催しました。当日の模様は下記の通りです。
①企業事例: 三菱地所グループのサステナビリティ経営
時間: 10:20~11:40
講師: 吾田 鉄司氏(三菱地所株式会社 サステナビリティ推進部長)

第1講は、三菱地所株式会社 サステナリビティ推進部長の吾田鉄司氏が「三菱地所グループのサステナビリティ経営」と題して講義した。
・三菱地所グループは、2050年に向けたサステナビリティビジョン「Be the Ecosystem Engineers」を掲げ「まちづくりを通じた真に価値ある社会の実現」を目指す。これを踏まえ、2024年に4つの重要テーマを見直した。
・1つめは「次世代に誇るまちのハードとソフトの追求」で、市街地の再開発を進める。「TOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)」では、高さ日本一のTorch Tower(地上高385メートル・2028年竣工予定)の周囲に、公園を含む2.0へクタールの屋外空間を整備する。
・同プロジェクトは2つの国際的な環境認証を取得した。前者のLEEDでは開かれた街づくりや高効率設備の導入などが、後者のWELLでは緑豊かな広場やユニバーサルデザインの採用などが評価のポイントになった。もう一つのプロジェクトとして、JR大阪駅前で進む「グラングリーン大阪」も紹介した。
・2つめは「環境負荷低減に尽力し続ける」で、CO2削減、再エネ導入、廃棄物削減、リサイクル率向上についてKPIを設定した。再エネについてはバーチャルPPA(電力販売契約)や証書によって、25年までに100%を達成できる見通しだ。三菱地所は「SBTネットゼロ認定」を国内ではじめて取得(22年)した企業でもある。
・欧州の投資家が注目する不動産アセットマネジメントの脱炭素推進ツール「CRREM(クレム)」を用いた分析も行った。現在のポートフォリオのままでは、2050年までの将来にわたって1.5℃目標水準を維持するのは困難という結果だったが、まずは開示することに意味がある。引き続き投資家と対話を重ね、求められる水準の達成を目指す。
・3つめは「人を想い、人に寄り添い、人を守る」で、女性活躍、ジェンダーダイバーシティ、多様な働き方を推進する。女性管理職比率は現在の8.1%を30年度20%、50年度40%を目指す。活動の一環として、女性のエンパワーメント原則(WEPs)や同性婚の法制化に賛成する企業を可視化するキャンペーン(BME)に賛同した。
サプライチェーン上の人権デュー・ディリジェンスについては、プロジェクトごとに現場が変わる、原材料の上流まで遡るのが困難など業界特有の難しさがある。そこで建設・不動産業9社で人権DD推進協議会を立ち上げ、三菱地所が代表幹事となって共同で取り組む。
・4つめは「新たな価値の創造と循環」で、「大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリア」をイノベーション・協創拠点とすべく、ベンチャーやスタートアップの誘致を進める。グローバルに展開する投資マネジメント事業については、預かり資金5.7兆円を10兆円規模に拡大することを当面の目標に掲げた。
・以上紹介した4つの重要テーマは、2020年に策定したテーマ(1.環境、2.ダイバーシティ&インクルージョン、3.イノベーション、4.レジリエンス)を見直したものだ。従業員から「もっと皆が腑に落ちるものを」という声が上がり「なぜサステナ経営なのか」という基本に立ち返って策定し直した経緯がある。
・投資家からも同様の声が上がり、24年に策定し直したテーマは社会価値・株主価値の両立をより強く意識したものになっている。毎週行う投資判断の経営会議では、4つのテーマが投資にどう関係するのかを明記するルールを設けた。
②野心的な長期目標をどう設定するか
時間: 13:00~14:20
講師: 後藤 敏彦氏(NPO法人日本サステナブル投資フォーラム 理事・最高顧問)

第2講は、日本サステナブル投資フォーラム理事・最高顧問の後藤敏彦氏が「野心的な長期目標の作り方」をテーマに講演した。企業が長期目標を策定する必要性について下記の通り解説した。
長期目標の必要性が増している。
・そもそも人類社会は3つの関連した課題に直面している。「人間活動を起因とする気候危機・生物多様性毀損」、「グローバリゼーションの影~世界的に人権侵害や特に先進国での世紀末からの格差拡大」、「各地での戦争、紛争」である。
日本が2030年頃までに直面する大きな課題は主に4つある。
1つは、少子高齢化だ。2030年に日本の人口は1億116万人、高齢化率40%になる。おそらく、75歳まで働かないと社会がもたない。
2つ目は、温室効果ガスの削減だ。2035年までに60%減(2019年比)を目指すなら、2030年には43%減(2019年比)が必要だ。
3つ目は、IoT, AI(含む、フィンテック)などロボティクスの進展だ。自動運転はもう少し先かもしれないが、生成AIなどが社会に根付く。
4つ目は、MaaS, PaaS, SaaS, XaaS、PlaaS, BaaSなどだ。これらのサービスによって、シェアリング・エコノミー、サブスクリプション・ビジネス、サーキュラー・エコノミー、サービス・マネジメントが主流になるかもしれない。
・SDGsが成果を挙げ、格差是正が進み、ビジネスが成り立っていることを前提にして。2050年ごろには、パリ協定の「1.5℃目標」が実現した場合、GHG排出量は実質ゼロだ。一方、世界人口は90億~100億人に増えて、日本の人口は9千万~1億人に減っている。
・こうした社会変化に対応するため、企業には戦略統合の必要性が増す。会社の中長期のありたい姿とは、企業の発展戦略である。それには、「SDGs対応戦略」「TCFD・IFRS/ISSB・CSRD/ESRS対応戦略」が組み込まれていることは必須である。
つまり、今後、企業戦略策定には、企業の発展戦略とサスタナビリティ課題戦略と、シナリオ・プランニング・分析の一体化が必須だ。経営企画・サステナビリティ・IR・財務・広報などに横串を刺したチームの必要性も増す。
・長期目標を策定する際に、3~5年計画では真のイノベーションは起きない。長期は10年超~25年を指し、超長期は25年超だ。新しいパラダイムの中で会社を「どういう姿(Aspirations=ありたい姿)」にしたいか。トップ・ダウンでの策定指示がない限り策定不可能でもある。
③ワークショップ: 野心的な長期目標の作り方
時間: 14:35~15:55
講師: 後藤 敏彦氏(NPO法人日本サステナブル投資フォーラム 理事・最高顧問)

第3講は、「野心的な長期目標の作り方」についてワークショップを行った。講義後半ではワークショップでの議論の共有や、日本サステナブル投資フォーラム理事・最高顧問の後藤敏彦氏への質問が行われた。
・野心的な長期目標を作るにあたって「スコープ3がなかなか削減できず、売上や事業の拡大を目指すなかでの削減も難しい」ことや「算出するのに苦労している」といった悩みを共有。「どこまで高い目標を立てるべきなのか」という質問が出された。
後藤氏はスコープ3について、重要なことは「バリューチェーン全体の排出量を把握して、自社のビジネスが持続可能なのかどうかを考えること」だと指摘する。持続可能でなければ、ビジネスモデル自体の再構築が必要となる。持続可能な場合、次のポイントとなるのが「バリューチェーン上で最も排出しているチョークポイントをつかむこと」だ。後藤氏は「チョークポイントを把握したうえで、今後もそのチョークポイントを組み込んだまま事業を続けていくのか、それとも別の仕組み等に置き換えることで排出削減につながるのか、あるいは生産方法を変えるのかなどを検討することが重要だ」とした。
また「野心的な長期目標」については、「ゴールは必達目標ではなく、ベースとなるのは自社の『ありたい姿』。これは数字上の目標だけではなく、様々な要素を考慮しながら社内で議論を重ねた上で想定できるリスクや事象をクリアできているものが『ありたい姿』になる」と強調した。
・現場の人たちへのどのように訴求し意識を共有していくべきかという社内浸透についての質問もあがった。
これに対して後藤氏は、ひとつの考え方として「問われているのはバリューチェーンマネジメントであり、現場の人にも自分たちの製品の上流・下流でどういう問題が起こっているかを知ってもらう機会を提供する必要がある」と指摘する。
大企業では多数のビジネスラインがあり、「本社が考えるマテリアル課題と、それぞれのビジネスラインのマテリアル課題は必ずしも一緒ではない」としたうえで、「会社全体のマテリアル以外にも、ビジネスラインごとのマテリアルを把握することは重要だ」と強調した。
・また再生可能エネルギーの導入について、実際に導入する現場から理解を得るためのアドバイスを求められると、「企業が産業界の声として、再エネ普及を求めていく必要がある」と強調する。
後藤氏はIEAのデータを参照し、太陽光や風力発電による電力が火力発電に比べてコストで今後ますます優位に立っていると指摘。日本の再エネ比率は20%ほどだが、再エネの賦存量を見ると発電電力量は約6倍、設備容量は約15倍にのぼる。「現在の再エネ大国は中国だが、今後10年で欧州の再エネ比率も大幅に向上する。日本が現状維持するときに、10年後に果たして競争力は維持されるのだろうか」と疑問を呈した。
④企業事例: SOMPOグループのパーパス実現に向けた価値創造
時間: 16:10~17:30
講師: 平野 友輔氏(SOMPOホールディングス株式会社 サステナブル経営推進部長)

・サステナブル経営をするには、理念浸透や人的資本が大事であり、平野氏より、SOMPOホールディングスにおいて、会社のパーパス実現に向けて、どのような取り組みをしているのか、受講者も体験をしながらご紹介いただいた。
・SOMPOホールディングスがパーパス実現に向けた取り組みに注力している背景には、これまで合従連衡を繰り返してきた同社の歴史にある。同社は基幹事業の国内損保事業に加え、M&Aを通じて海外保険事業、介護事業などで事業の多角化を進めてきた。その分、「自分たちはどこを目指し何をやっていくのか」を明確にする必要があるということで、2021年よりグループのパーパスを策定し、それにあわせて、一人ひとりの「MYパーパス」にも着目する活動を展開している。
・人的資本経営を進める上でも、土台となるのが、MYパーパスの追求だ。「会社の中の自分」から、「自分の人生の中での会社」へと、価値観のパラダイムシフトを図ることで、自分自身のパーパスを軸に、会社のパーパスに照らし、両者の重なりがある部分こそが、一人ひとりの仕事のミッション、やりがいになる。
・MYパーパスは、自分は何のためになぜ生きるのか、人生の目的や働く意義などの志を指す。自分の心が動く瞬間(内発的動機)、こうすべきだと思うこと(社会的責務)、そして自分にはこれができる(保有能力)の3つの視点で探していく。MYパーパスは、新たに作るものではなく、自分の中にある答えに気づくことだ、と平野氏は話した。
・講義の中では、MYパーパスを考える体験として、受講者同士が「自分の好きなこと(内発的動機)」を話し合う体験もした。SOMPOグループでは、MYパーパスをもとにOne on Oneでの部署内の対話を行っている。その際、国内の管理職には自己開示やコーチングスキルを習得するための研修も実施している。対話によって人と人との関係性が変わることで、組織の変化が生まれる。実際にSOMPOグループでは、エンゲージメントの向上との相関が見られたという。
・講義後、受講者からは数多くの質問が寄せられた。MYパーパスに基づいた取組みを表彰する「SOMPOアワード」において社員投票を促すための工夫についての質問に対しては、アワードに向けてムーブメントを作っているが、社員投票を集めることの難しさや苦労は共感するとコメントした。
・また、MYパーパスと会社のパーパスのミスマッチに気がついた人がいる場合、どのようなフォローをしているか質問があった。平野氏は、「仕方ない」と捉えているとしつつ、ミスマッチが「本当に合っていない」のか、「なんとなく」なのかについて、しっかりと対話をする手法をマネジメントに学んでもらっていると回答した。