鳥インフルエンザ、ナベヅルの存続の危機に直結も

私たちに身近な生物多様性(41)

記事のポイント


  1. 今年の鳥インフルエンザの野鳥の感染数112件中約30件がナベヅルだ
  2. 全世界のナベヅルの9割が鹿児島県出水市周辺で越冬する
  3. 大量死が起きた場合、ナベヅルの種の存続の危機に直結も

今年の鳥インフルエンザの野鳥の感染事例112件のうち約30件がナベヅルだ。全世界のナベヅルの9割に該当する1万羽ほどが鹿児島県出水市周辺で越冬する。高病原性鳥インフルエンザの感染が広がり大量死が起きた場合、ナベヅルという種の存続の危機に直結することもある。(生きものコラムニスト=坂本 優)

ナベヅルは鹿児島県の出水市などごく限られた飛来地で越冬する

昨年末から年初にかけて全国的にインフルエンザが猛威を振るったが、自然界でも鳥インフルエンザが蔓延し、ニワトリなどの家禽にも感染が広がっている。養鶏業への影響も無視できず最近の鶏卵価格の上昇の原因の一つともなっているという。

環境省などの統計によれば、2025年2月5日時点で、ニワトリなどの家禽での感染報告は1道13県51件だ。殺処分された家禽数は約1000万(934万)羽に及ぶ。

野鳥においても、今シーズン(冬の渡り鳥が飛来し始める10月頃をシーズンの開始時期としている)1道16県112件が報告されている(野鳥の統計は、死亡個体からのウイルスの検出事例)。

野鳥の感染で気がかりなのはナベヅルなど鹿児島県出水周辺のツルたちだ。観察されやすい状況にあることにもよると思われるが、全ての野鳥の中で最も死亡確認事例が多い。

感染拡大はマナヅルの種の存続にも大きな影響が

全国で確認された感染事例112件中、ナベヅルが約30件、全体の4分の1を占める。ナベヅルは鹿児島県の出水市などごく限られた飛来地で越冬する。

一時期に比べ飛来地が増えたとはいえ全世界のナベヅルの8~9割に該当する1万羽ほどが出水市周辺で越冬していると言われている。

ここで高病原性鳥インフルエンザの感染が広がり大量死が起きた場合、ナベヅルという種の存続の危機に直結する。出水周辺は世界の生息数の約半数にあたると言われる概ね3000羽のマナヅルの越冬地でもある。

マナヅルでの感染事例も5羽ほど報告されている。マナヅルにおいても感染拡大は種の存続にとって大きな影響がある。

ナベヅル30羽、マナヅル5羽は決して少ない数字ではない

100万羽単位で飛来するカモ類の感染事例が10数羽(うち半数近くをヒドリガモが占める)、ハシブトガラス、ハシボソガラスを合わせたカラス類の感染事例が20羽ほどであることを考えると、報告ベースのサンプル数ではあるが、ナベヅルの30羽、マナヅルの5羽は決して少ない数字ではない。

身近な鶏卵の昨今の値上がりは、ツルたちの種の存続、生物多様性の危機とも連動している。

ナベヅル、マナヅルなど出水周辺のツルたちへの鳥インフルエンザ感染の拡大については、多くの関係者が危機感をもって現状を注視し、対応を実施・検討中であることは感謝の念をもって承知している。

千羽鶴ならぬ万羽鶴の飛翔や群集の様は世界にも例のない自然界の一大スペクタクルだ。地域の人々が江戸時代以来ツルを大切にしてきた結果でもある。

その素晴らしさに感動し、数百年間にわたる人々の努力に敬意を表しつつ、飛来地の分散にむけた取組を更に加速していただきたいと願ってやまない。

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坂本 優(生きものコラムニスト/環境NGO代表)

1953年生、東京大学法学部卒業後、味の素株式会社入社。法務・総務業務を中心に担当。カルピス株式会社(現アサヒ飲料株式会社)出向、転籍を経て、同社のアサヒグループ入り以降、同グループ各社で、法務・コンプライアンス業務等を担当。2018年12月65歳をもって退職。大学時代「動物の科学研究会」に参加。味の素在籍時、現「味の素バードサンクチュアリ」を開設する等、生きものを通した環境問題にも通じる。(2011年以降、バルディーズ研究会議長。趣味ラグビー シニアラグビーチーム「不惑倶楽部」の黄色パンツ (70歳代チーム)で現役続行中/関東ラグビー協会参与)

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キーワード: #生物多様性

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