編集長インタビュー: 鎌仲ひとみ氏(映画「ミツバチの羽音と地球の回転」監督)

■エネルギー危機が来たほうがいい?

森: そのためには原油が高騰してもらった方が人々の危機感は高まるのではないでしょうか。

鎌仲: 原油は高くなり続けていきますよ。

森: もっとグッとね。2008年の夏に1バレル147ドルまでいったんですけど、これを突破して、200ドルを越え、ガソリン1リッター300円になると、モビリティの移動手段として使えないと。これは実はトヨタの環境担当の部長が言っていました。

鎌仲: でも30年も前にオイルショックが起きた時に、30年後にそうなるだろうという予測を世界中がしたわけですよ。

森: ところがそれを今の日本人のかなりの人が忘れています。

鎌仲: 当時の日本の政策を作る人たちもそれを全然きちんとした予測として受け止めなかったわけでしょ。原発55基建ててどれだけ石油の消費量が減りましたかと言うと一切減ってないし、これから14基建てても決して減らないし、CO2も削減できるわけでは全くないのにやろうとしている。

森: むしろオイルショックの時のほうが国の対応は素晴らしかった。テレビの深夜放送がなくなったでしょ。街のネオンが消えたじゃないですか。子ども心に見てて大変な時代が来たと思った。ところが今は深夜放送が減るわけでもないし、ネオンも消えるわけでもない。

鎌仲: 原発があるからいいと思っている。

森: 危機感がやはり薄いですよね。

鎌仲: スウェーデンの人になんでこんなに脱石油が進んでいるんですかと。結構大きな10万人位の都市でも、石油をほとんど使わなくなっているような町に行って自治体の職員に「すごいですね」って言ったら「だってお前30年前にオイルショックがあっただろう。石油がなくなるって分かっているのに、そんなものを頼りにやっていけるわけがない」とすごい真顔で言うの。「日本は何をやってるのかな」と。

森: そういう危機感が今の日本人はないですね。

鎌仲: それは情報がないからですよ。

森: それに加えてカナダとか北極圏のオイルサンドやオイルシェールを使えば、あと30年50年は使えますよなんてことがまた新聞で報道される。

鎌仲: メディアは腐ってるね。あんなコストがかかる発電をやってどうするんですか。

森: 1リッター300円になったら、車のタンクは大体60リットル入るから、1万8千円かかる。ものすごく深刻な話で。まだ都会に住んでいる人達は地下鉄もあり、バスもあるのですが。

鎌仲: 田舎は大変だよね。

森: 田舎は大変ですよ。

鎌仲: エタノールを作って使うのに税金をかけたりするような馬鹿なこともやっているし。日本はバイオガスをものすごく作りやすい国なんだよね。スウェーデンのバスはほとんど全部がバイオガスで。10年前からバイオガスで走っていて、それも人間のし尿から作ったバイオガス。

森: バイオガスの鉄道もありますよね。

鎌仲: それもあるし、車も普通のタクシーとか走っているでしょ。脱石油っていうビジョンを掲げて、政策がそれに向けて、インセンティブをつけている税金をつけ、国を挙げて行こうとしてるからそうなる。日本はただ原発を建てて、関連の電力会社とか、三菱とか日立とか東芝が儲かればいいんだみたいな。そういう風になってることを国民は知らないから、あーなんだ、そーなんだーえー(笑)。

森: それを考えると、エネルギー危機がきてくれたほうが、国民の意識が変わっていいのでは。

鎌仲: 私も石油が高くなるのはいいと思うね。

■日本の愚策エネルギー政策

森: 去年、暫定税率の議論の中で、暫定税率を廃止して、石油が高騰したときのクッションのお金に当てるという議論がありました。多分その話は生きていると思うんですけど。原油とかガソリンが高騰した時に上がった分を補填するお金になるという話ですた。これも話は逆だと思う。危機が起きた時に、きちっと対応すべきなのに、目先の対応ではきちんとした変革が行われない。

鎌仲: この間、国会議員の人たちと会ったんですけど、すごく良心的だし、勉強もしている。六ヶ所にも行ったことがあり、上関にも行ったことがあり、そしてエネルギー事情とかもある程度は知っている。

森: なんていう方ですか。

鎌仲: 例えば山崎誠さんとか、超党派で何人かは、多少は知っていらっしゃるし、勉強したいと思っているし、ちょっと情報を得ただけでおかしいと思っているようです。エネルギー政策決めている権力を持っている人たちが、エネルギー全体に関する知識が決定的になく、それで官僚が牛耳っている。じゃあ官僚は一体どうしてそれをやっているのか。どうしてこんな世界でも、本当に奇妙奇天烈な愚策であるエネルギー政策を、こんな変なエネルギー政策を国家のエネルギー政策としてぐちゃぐちゃに進めているのかと思うのです。

森: これは地球が温暖化しているかどうかに関わらず大事ですよね。

鎌仲: 日本のエネルギー政策は、世界中から改革ができないと思われています。もう40―50年前のエネルギー政策を何一つ変えずに、ただグチャグチャといじくりまわしてるだけ。なんの改革も行われていない。

森: これで国民の生活が大混乱に陥ったら、ほんと国の責任ですよね。

鎌仲: 原油が上がればって言ったけれども、映画の中でもでてきますけど、化石燃料だけで2008年だけで23兆円買っている。

森: 輸入してるわけですね。

鎌仲: 輸入してるのですよ。私たちのお金が全部国の外に出て行くのです。

森: ざっくりいうとGDPの5%ですよ。

鎌仲: それがオイルビジネスに落ち、ハゲタカファンドに行き、何にもいいことがない。そのお金を国内に留めるのが政策でしょう。もう私がエネルギー庁副長官くらいになりたいよ、と思う(笑)。

森: 昨日、実はメルマガに書いたんですけど、イギリスはエネルギー省と気候変動省が合体したのです。知ってましたか?

鎌仲: 知ってますよ。

森: 昔のエネルギー部門と気候変動を担当する部門が2008年に合併したのですが、要するに英国では、エネルギー政策と気候変動政策は表裏一体なのです。これは日本ではあり得ない。環境省と資源エネルギー庁が合併するようなものだからです。日本の行政の発想ではまず出てこない。

鎌仲: だから日本は古臭いのですよ。現実に起きていることをしかと見れていない。2008年は23兆円だったからいいかもしれないけど、すぐ100兆円位になっちゃう。それを一体どうするのか。エネルギーの安全保障というものをこんなに投げ捨てている国は他にはありません。

森: そうですよ。原油が急騰したらその分政府は補填しようとしている。

鎌仲: そのお金って誰のお金なの?

森: それは暫定税率の分ですよ。それは本当にばかげた話であると。でも、ここでこうやって二人で盛り上がっててもね。

鎌仲: だからこの映画を見てほしいわけですよ。私は。そのためにオルタナさんとつながって、この映画が観たくなるような記事を書いてほしい。2時間15分はちょっと長いのですが。

森: あの映画は、短いバージョンはないのですか?

鎌仲: 短いバージョンなんてありませんよ。

森: 2時間15分ちゃんと観てくださいと。

鎌仲: 観てくださいよ。だってスウェーデンと祝島と両方合体しているんだから、2本の映画が1本になってるみたいなものだし。同じお金で長く見れるんだったら得だという人もいます。

森: そうか、なるほど。

鎌仲: スウェーデンの人たちがいかに日本と違う考え方を持って、しかもどんどん実践していることを知ってほしい。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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