資源循環の本質はリサイクルの先にある

記事のポイント


  1. リサイクルは必ずしも「循環」ではない。完全な資源循環で、石油に頼らない社会の実現を目指す
  2. ファッション産業のOS更新(服の企画・製造から販売・回収・再生まで一貫して行う循環の「環」をデザインする)
  3. 旧い石油化学工場も含め、社会全体の資源循環OSをアップデート。「競争から共創へ」の戦略転換で新たなグローバル優位性を獲得

「脱石油」を掲げた、ある会社の古着の回収ボックスが全国1万カ所を超えた。廃棄物を資源に変え、石油など希少資源に頼らない社会の実現を後押しする。その戦略は、差別化・競争の原理を超越し、競合も仲間にするという大胆なものだ。しかも、グローバル競争において競争優位性を持つ。(竹村 眞一・京都芸術大学教授/オルタナ客員論説委員)

「BRING」という古着回収BOXをご存じだろうか?

百貨店や小売店の店頭などで最近よく眼にする黄色いミツバチマーク。あちこちから貴重な花の蜜を集めてくるミツバチのように、古着という貴重な資源を集めたいというメッセージが込められている。

BRING
ミツバチマークの古着回収BOX「BRING」

その事業主体はJEPLAN(ジェプラン、旧・日本環境設計、川崎市)。綿やポリエステルの服を資源として再生する世界でオンリーワンの技術を開発しつつ、そこにしっかりと「社会の蜜を集める」資源回収の窓口を全国で1万余の拠点に設置する。

ともすれば倫理や義務感が先行しがちなエコ・リサイクルの世界に、「ミツバチのごとく蜜を集める」というポジティブで楽しいイメージを前面に出したところに経営者の心意気を感じる。

同社の貴金属・レアメタルの回収・再生技術で、国際的なスポーツ大会の金銀銅メダルが作られた。「もう大地を掘り返して鉱山開発しなくても、都市の廃棄物の山に十分な鉱物資源が眠っている」という、いわゆる「都市鉱山」の概念もこれでリアルなものとなった。

だがJEPLANは、これを「リサイクル」と呼ぶことに異を唱える。というのも現行の「リサイクル」は多くの場合、真の意味での「循環」(サーキュラーエコノミー)になっていないからだ。

■服が何度でも回収される循環の「環」を目指した

たとえば昨今、「PETボトルから作った服」と書かれた表示をファスト・ファッションでも眼にするようになった。確かにその段階ではゴミから衣服に「再生」されているかもしれないが、ではその服は「その後どうなるのか」?――服になった後、少しのあいだ着られて結局捨てられるとしたら、それはゴミになるのを少し「遅らせた」だけで、循環経済をデザインしているとは言えない。

かつてファッション業界は、服の製造業とそれを販売するセクター(小売・量販店)が別だった(これを衣料産業のVer1.0としよう)。そこに企画・製造から流通・販売までグローバルに展開するファスト・ファッションの流れが登場(Ver2.0)。その結果、服は消費者の手に届きやすくはなったものの「過剰生産」と「過剰廃棄」の流れが加速。

英国エレン・マッカーサー財団などの調査では、いまや製造から1年以内に廃棄される衣服――つまり「買われずに廃棄される服」+着られたとしても「数カ月で捨てられる」、あるいは古着回収に出しても結局はアフリカなど「地球のどこかで捨てられ、燃やされる」――こうしたフードロスならぬ「衣服ロス」は87%に上るといわれる。

そこでJEPLANは古着回収のみならず、その古着から再生した服の企画・製造・販売まで、「BRING」ブランドでマネジメント。服が何度でも回収され、永遠にめぐり続けるトータルな循環の「環」として業態化した。

こうして「企画・製造から販売まで」の既存のファッション業態に最後の「回収・再生」のプロセスまで加えた新業態(Ver3.0)としてファッション産業全体のOSをアップデートしようとしている。

(この続きは)

■ゴミの資源化は「脱石油」にもつながる

■30年過ぎにはコスト的にもバージンPETと拮抗か

■世界の石油化学OSのアップデートを目指す

■「日本型OS」がグローバル競争では競争優位に

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shinichitakemura

竹村 眞一(京都芸術大学教授/オルタナ客員論説委員)

京都芸術大学教授、NPO法人ELP(Earth Literacy Program)代表理事、東京大学大学院・文化人類学博士課程修了。人類学的な視点から環境問題やIT社会を論じつつ、デジタル地球儀「触れる地球」の企画開発など独自の取り組みを進める。著者に『地球の目線』(PHP新書)など

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