アートはデザインとは異なる次元でサステナビリティを語る

COIL/Chutoku Open Innovation Labとは、山口県周南市に本社を置く中特グループが、固定観念に捉われない物の見方で現代の社会の仕組みをRedesignすることで、イノベーションを起こし、社会の課題を解決する取組みだ。そこで2021年12月、廃棄物を利用したアートコンテストが開かれた。(オープンハウス代表取締役、環境省グッドライフアワード実行委員長・益田 文和)

COILでは廃棄物を利用したアートコンテストを開いている

永年にわたり山口県周南市の地域密着型企業として環境事業に携わってきた中特グループは、本社屋を新築するにあたって「働く場」だけではなく、地域に住む人々が出会い、イノベーションを起こし、あたかもコイルが渦を巻きながらエネルギーを蓄えるように、モノやコトに新たな価値を生み出す場、「Re」をデザインする存在にしたいという願いをこめた。

■COIL Upcycle Art Contest2022

このアートコンテストは、廃棄されるものを利用したアートコンテストを通して、応募者、制作者やその作品を見る人々に廃棄物の再利用方法や環境保全の重要性について広く考えて頂くことが目的だという。

私は何十年もデザインの仕事をしてきた。中でも環境問題を課題とするサステナブルデザインが専門分野だから、アップサイクルは1990年代から関わってきたテーマだ。もちろん、絵画や彫刻をはじめ、いわゆるアートと言われる世界には馴染んできたから、アップサイクル・アート・コンテストと聞けば興味を持たないはずはない。

ところが、このコンテストの最終審査会にゲストとして立ち会って、生まれて初めてアートを脅威と感じ、同時に強い共感を覚えた。

今回が2回目だというCOIL Upcycle Art Contest2022には100点を超える作品が応募されたという。その中から7点にまで絞られた賞候補作品の作家が招かれてプレゼンテーションを行った。審査会場は新築のあっけらかんと透明で開放的。作家も審査員も主催者もみんな友達みたいでなにしろ明るい空間に、さりげなく置かれた7つの作品が居心地良さそうに溶け込んでいる。

以下、その会場で私が体験した作品たちの生の声をご紹介したい。

グランプリ「ことだまのうつわー[毳(けば)器]」

作者:押鐘 まどか(おしかね まどか)さん 

生地の端っこの、処理されていない生地耳と呼ばれる部分は、製品の材料にならず捨てられてしまう。それらを拾い集めて作られた生きものたちが、口を開いて吠えている。糸の素材は様々だけど、化繊はもとより木綿や麻や羊毛だって人が勝手に作っておいて、端っこはいらないからって捨てられる。服は着て飽きられれば捨てられるけど、生地になる前に捨てられた私たち生地耳でも、こうやって集められ、見かけによらずに重くて硬い形を与えられれば、呼吸を始めて歌い出すんだ。生まれてきてから、糸になり、織られて編まれて縫われてきた、これまでの、一部始終の記憶をたどって物語を編みつづけるんだ。

そして、流行りって何だ、技術って何だ、産業って何だ、デザインって何なんだと問いかけるんだ。聞こえる人には聞こえるはずさ。

準グランプリ「おこもり」

作者:森 有未(もり あゆみ)さん 

ビニール袋を捨てないで、割いて結んで紐にして、細長く編んで作った吹き流しのような揺れる筒。まるで巨大な海中生物のような半透明の空間に潜り込んでみると、その空気の流れの一部のように軽やかな造形物の、物質としての実在感が目の前に迫って来て、ほら、という。ほら私、あなたたちが自分で作っておいて、良くない奴だと毛嫌いしてるあれですよ。ポリエチレンやポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート。地中深くに何億年も油となって眠っていたのに、ある時いきなり掘り出され、いろんな種類のプラスチックに組み替えられて、軽くて強くて清潔そうで便利な袋に成形されたけど、一度使えば捨てられる。ところが捨てても自然に戻らないからと、厄介者扱いされて嫌われる。そんな無茶苦茶な話ありますか?プラスチックがそんなにいやなら放っておいても自然に戻る材料を使いなさいよ。さっきまで、光を通して風に揺らいでなんと、美しいと褒めていたけど、近くで見て触って正体が分かりましたか?私は一体どうすればいいんですか?

審査員特別賞「在り方」

作者:鈴木 麻希子(すずきまきこ)さん

この作品は時間とともに変化するので写真で表現される。 

これを見たとたん、私はショックを受けた。剥かれて食べられたバナナの皮が赤い糸で縫い治されている。ミカンの皮も縫合されている。 

ほら、あなた達がしょっちゅう言ってるリサイクル?プラスチックをごみにしないで済むように、なるべく薄く小さく軽くして、何度も使って、修理して、最終的には素材に戻して作り直して、それをまた繰り返すんだよね。 

だから真似してみたのよ。どう?赤い糸がきれいでしょう?え、痛々しいって、どうしてかしら?卵の殻は残念ながら硬くて針が通らなくってバラバラになっちゃったけど、努力だけは褒めてあげて。え、ビニール傘はもう少しうまくできるだろうって?そんなのはあんたたちが作ったもんなんだから、うまく修理できるようにデザインしてよ。そんなことより、自然に戻らない材料であれもこれもと作っておきながら、ごみになるから困るって、何でもかんでもリサイクルするなんてご苦労様。私たち、ほっておいても土に戻って分解されて、また瑞々しい姿で再生するのよ。 

赤い糸で括られた痛々しい姿に同情なんかしてないで、自分たちが何をしているのかちゃんと考えなさいよ。 

(こいつらはっきりとしゃべっている。アートって恐ろしい。) 

入賞作品①「廃棄本は、ごみ?作品?資源?MOMINICATION 揉みにケーション = MOMU 揉む × COMMUNICATION」

作者:しょうじ まさる さん

この人は不思議な人で、雑誌から漫画本、文庫本から辞書まで、本という本を手あたり次第、揉んで揉んで丸めて丸めて括り上げて満足している。それだけなら一風変わったインスタレーションなのだけど、事実は全くそれだけではない。満足しているのは彼ではなくて揉まれるほうの本たちなのだ。そんなことがどうしてわかるだって。ほら、括られた本の表情を見てごらん。何と穏やかな良い表情をしていることか。 

1ページ、1ページ、一枚一枚丁寧に、愛情を込めて撫でられ、揉まれて丸められてごらんよ、くったりと力が抜けて気分最高だぜ。大体俺たちはもともと深い森に生えていて、たっぷりと二酸化炭素を吸い込んで代わりに空気を酸素で満たしながら、長い年月生きてきた大木だった。それが人間に伐られて運ばれて砕かれて煮られて薬品付けになってぺったんこな薄い紙に姿を換えられたんだな。そのうえ今度はインクで何やら印刷されて、切られて綴じられて本とかいうものにされたわけさ。そうなると人間は印刷された文字とか絵とか写真とかに興味があっても紙になった俺たちには気も留めないで、ろくに目も通さずにポイと捨てたり、また溶かして再生紙とかにしてみたり、やりたい放題さ。ところがこの変わった人間は、そんな俺たちの表面に着いた文字やインクにゃ気も留めないで、ひたすら揉んでくれるじゃないか。それで丸めて束ねてくれりゃ、何とはなしにまた少し木に戻った気がするじゃないか。ああ幸せだ。

入賞作品②「音物達(おともだち)」 

作者:直井 大紀(なおい だいき)さん

はじめは気づかなかったけど、会場に音が鳴っている。音楽のようにも聞こえるけれど特に気にならない。こんな明るい、光に満ちた空間には、特にBGMはいらないと思っている私でも、人の話し声とか靴音や、食器や家具の立てる音、周囲の自然や街の音、遠くの電車や車の音など、静けさを構成する心地よい音環境の一部としてさりげなく鳴っている音。どこから聞こえてくるのかと見回すと、スピーカーらしい白い筒と真っ黒な箱がるので近づいてみる。黒い箱の真ん中にまあるい穴が開いている。覗いてみるとその音の正体が見えてきた。テニスボールにキャッシュカード。歯ブラシ、ピンセット、バリカンやコンビニのスプーン。金尺、レッドブルの空き缶とヤクルトの空き容器。箸にガラス容器とガラスボウル。数珠がしゃらしゃら、ジッパーがシャシャシャ。どれもそこらにあるものばかりで、中には捨てられる前に自身の記憶を音で残しておこうと思っているのか、それぞれ真面目に真剣に、自分の体で演奏中だ。みんな結構練習したのだろう、すこぶる控えめで不器用だけど心地よい自然の音を奏でてる。ものにはそれぞれ固有の音がある。世界はそのままで音楽なんだ。

入賞作品③「Material Anatomy」

作者:シモ×dom=下田悠太(しもだ ゆうた)さんと、ノドム(のどむ)さん

ビールやジュースや強壮剤、いろいろなアルミ缶がお辞儀をしたり、背伸びをしたり、にぎやかに話してる。「どうも歳をとると歩くのが億劫になっていかん」。「何言ってるんですよ、あんたその膝の角度がいかにも年寄り臭いのよ、そのうち本当に歩けなくなるわよ」。「ちょっと、二人ともどうしたって言うんだい?年寄りの真似なんかしてるけど、俺たちアルミ缶に、中身が詰められて、運ばれて、買われて、冷やされて、そんでもって飲み干されて、空んなって、クシャってつぶされるまでに1週間とかかっていないんだぜ」、「確かにな、ボルドーの何十年もんみたいなワインボトルに比べりゃ、あっちゅう間の一生さ」。「来週の収集日には集められて、みんな一緒に溶かされて、またピカピカのアルミ缶に生まれ変わるのさ」。 

まあ、はかない命だとは知りながら、それでも川か海に投げ捨てられていつまでも漂っているよりはましだとばかり、いつもは自販機やコンビ二の棚に気取って並んで突っ立っているアルミ缶達が、みんなでひと時の物真似ゴッコだ。

入賞作品④「circulation」

作者:柏崎 桜(かしわぎ さくら)さん

スーパーやコンビニなどで買い物をすると「レシートいりますか?」と聞かれるあの感熱紙にプリントされた紙切れ。あれをもらっておくと家に帰ってポケットや財布やバッグからごそごそ出てきて、「ああ、またこんなに買い物しちゃったんだ」と考えていやになる。それを丸めて捨てると、「ああ、また紙を無駄遣いしてる」と思ってもっといやになる。だけど、レシートの身になってみれば、人間が勝手に買い物して受け取っておきながら、自分を見てはため息をつかれ、くしゃくしゃにして捨てられる時に、またいやな顔をされたんじゃたまったもんじゃない。ところがこの人は、一枚一枚しわを伸ばして、表面に不思議な液体で模様を描いてくれる。ギザギザだったり曲線だったりするけれど、丁寧にきれいに、くっきりと、繰り返し繰り返し描かれた線は、自分たちが単なる紙切れではないんだ、と言ってくれているようでうれしくなる。その上、今まで無駄遣いの悔恨と無用物の蔑みを受けてきたレシートたちは、きちんとまあるく並べられ、半透明の作品になる。その丸い形は、エンドレスな消費はそれを支える無限の生産によってのみ可能な経済活動の象徴とも思われるが、同時にそれがいつまで続けることができるのか、と問いかけてくるようだ。

株式会社中特ホールディングス 
〒745-0801山口県周南市久米3034-1 
https://www.chutoku-g.co.jp/company/coil 

株式会社オープンハウス 代表取締役 益田 文和 
https://openhouse.co.jp/ 

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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